カテゴリ:STORY( 87 )

小説60

「怒るわよ。なんにも連絡してこないままいなくなっちゃうなんて。バイトならいつもやってるじゃないの。どうして岐阜なんか・・・」
なんだか、誰かと同じようなこと言うなと思いながらも、ぼくはどうして岐阜にまで行ってバイトをしなければならなかったかを彼女に説明した。そう、あの日、鮎川優菜に説明したときのように。
「なるほどね、理由はわかったわ。でもそれと、なんの連絡も無しにいなくなったこととは別でしょ。」
「それは悪かったと思いますよ。でも、それくらいで心配するひとがいるなんて思ってもなかったから。」
ふうっ、と彼女はため息をつくように息を吐き、しばらくぼくの顔を見つめたあとにこう言った。
「あなたはね、もう少し人のことを考えた方がいいわよ。自己中心的だとは言わないけど。っていうよりも、もう少し自分自身の他の人に対する影響力ってものを考えた方がいいって言うべきかしら。」
ぼくは少し驚いて彼女の顔を見た。
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by ktaro1414 | 2007-07-11 18:38 | STORY

小説59

 タクシーが着いたのは、またしてもホテルのエントランスだった。ぼくは、何となくぼうっとして乗っていたので、すぐにはここがどこなのかわからなかったが、やがてここが昨年オープンして話題になったアークヒルズなのだということがわかった。彼女はさっさとエレベーターに乗って3階で降りた。彼女が入っていった店は寿司屋だった。またしてもやられた、そう思った。いくらぼくが抵抗しようとしても、いつも彼女が遙かその上をいっている感じだった。
「で、なにやってたの?今まで。」
奥のテーブル席に着き(たぶん、カウンターでは話しづらいと思ったのだろう)、一通り注文をすました後、そういって彼女が口を開いた。
「バイトに行ってたんですよ。岐阜まで。」
「岐阜?どうしてバイトで岐阜になんか行かなくちゃいけないのよ。」
「なに、怒ってんですか?」
ほんとに何を怒っているのだろうと思っていた。
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by ktaro1414 | 2007-07-06 18:21 | STORY

小説58

「六本木までお願いします。」
運転手にそう告げて、彼女はタクシーのシートに深く身を沈めた。どこに行くのかと尋ねるボクに、「何処にしようかしら」とだけ言ってそのまま黙ってしまった。仕方なくぼくも黙ったまま流れる外の景色を眺めていた。その間、彼女は時折運転手に行き先を指示していた(それは相変わらずてきぱきとしていた)。ぼくはそれを聞きながら、結局行き先は決めてんじゃないか、そう心の中でつぶやいた。
「何にする?」そう言う彼女に「何がですか?」と答え、「何を食べるかってことよ。」という彼女に「決めてるんでしょ?」と返し、「どうして?」と言う彼女に「だって行き先決めてるじゃないですか。」と言い返した。
「行き先だけはね。でも、何を食べるかは決めてないわ。何がいい?」
「何でもいいですよ。まあ、出来ればフレンチとイタリアンと中華以外がいいですね。」
「そう。」それだけ言って彼女は再び黙ってしまった。少し子供じみているかとも思った。ただ、決めていると言っている場所に何があるのかわからなかったが、たいていその3種類をはずせばカジュアルな居酒屋のような店になるだろうと思ったのだ。
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by ktaro1414 | 2007-07-02 18:30 | STORY

小説57

「どうしたんですか?」
少し驚いたぼくに、彼女の方が大げさに驚いてみせて言った。
「それはこっちの台詞でしょう。何度来ても店にはいないし、電話は留守電になってるし、どうしようもなくて店の人に訊いたら2ヵ月休んでるって言うじゃない。2ヵ月っていったらそろそろかなと思って来てみたらあなたのバイクが止めてあったってわけ。どうして私服なの?」そこまで一気に話した後、彼女が訊いてきた。
「バイトは明日からなんですよ。今日は挨拶に来ただけ。」そう言ってぼくはヘルメットをかぶろうとした。
「2ヵ月もどこで何してたのよ?まあいいわ。ご飯食べに行きましょ。詳しい話はそのときに訊くわ。」
そういって彼女は大通りへと歩き出した。たぶんタクシーを拾うつもりだろう。相変わらず強引だ。
「ダメですよ。ぼくはバイクなんだから。」
そういうぼくを見ながら彼女は言った。まるで手が焼けるこどもを見るように。
「置いていけばいいでしょ、いつものように。」
ふうっとぼくは息を吐いてヘルメットをバイクにつけ、彼女の後に続いた。
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by ktaro1414 | 2007-06-29 12:40 | STORY

小説56

 鮎川優奈とは、夏休みに入る最後の日、唐沢達と飲みに行き、その後ぼくの部屋に泊まった翌日、新井薬師前駅まで送って別れて以来連絡を取っていない。もちろん、ダム工事のバイト中でも連絡するぐらいの時間はあったけれど、長距離電話でわざわざ連絡するまでの用事はなかったからだ。電話をかけようか迷ったけれど、どうせ明後日には後期が始まるし、学校に行けば会えるだろうと思いとりあえず電話を入れるのはよすことにした。
 翌日は朝から快晴で(起きたのは昼前だけれど)、たまった洗濯物を一気に洗い上げ、部屋の掃除をした。それだけであっという間に夕方になってしまい、ぼくはバイクでバイト先へと向かった。バイト自体は明後日からなのだが、とりあえず帰ってきた報告をしておこうと思ったのだ。
 マネージャーに明後日から出勤できる旨を伝え、明日の土曜日から出てこいという返事をもらい、それを了承したぼくはエントランスへと続く階段を駆け上がった。エントランスでまだあまり客のこない時間帯を持て余しているタカシに軽く挨拶を交わしてバイクに近づいていくと、ボクのバイクの横に女が立っていた。豊田瀬梨香だった。
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by ktaro1414 | 2007-06-28 19:19 | STORY

小説55

 新宿駅の西口で高速バスを降り、西武新宿線に乗り換え、ようやくぼくのアパートに着いたときには、もうすっかり日が暮れてしまっていた。ドアを開け入った部屋の中は、60日分の咽せるような真夏の空気が充満していた。ぼくは、部屋と台所の窓を開け、荷物を下ろし、洗面所で顔を洗った。そこには、昨日までの工事現場の泥が染みついたように真っ黒になったぼくの顔があった。とりあえず、近くのコンビニで買ってきた缶ビールを空け一息に半分ぐらいを流し込み、赤くランプが点滅している留守番電話のボタンを押した。「26件です。」と、聞き慣れた女の乾いた声がした後に、録音テープが回り出した。夏休みに帰ってこない息子に愚痴をこぼす母親の声、小学生用の教材がいかにすばらしいかを簡潔に話す男のセールストーク、何も言わずに切れる受話器の音、それらが淡々と再生されていった。テープが終わりに近づいた時、明るい女の子の声が流れてきた。鮎川だった。
「ピーッ。優菜です。戻ってきたら連絡ください。ピーッ」
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by ktaro1414 | 2007-06-25 12:29 | STORY

小説53

 結局バーを出たのは午後11時過ぎになった。当然電車はまだ動いている時間だが、ぼくはタクシーを探していた。鮎川が完全に酔ってしまい、とてもひとりで歩ける状態ではなくなってしまったからだ。(これじゃ、この間と同じ事の繰り返しじゃないか)ぼくは心の中でつぶやいた。ようやく捕まえたタクシーに何とか彼女を乗せ、あからさまに嫌な顔をする運転手に新井薬師の住所を告げた。「吐かないでくださいよ。」そう嫌みを言いながら車を走らせる運転手をぼくは無視した。鮎川は少しだけ顔をゆがめ、頭をぼくの肩に預けていた。
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by ktaro1414 | 2007-06-14 12:22 | STORY

小説51

 それからの鮎川は、それまでとはうって変わって饒舌になった。ぼくたちは、他愛のない会話を笑いながら交わし、ぼくは生ビールのジョッキを4杯、彼女はチューライムを2杯飲んだ。そんなとき、突然広石さんがぼくに話しかけてきた。
「慧太郎くんは夏休みどうするの?」
「夏休み?」
「そう、夏休み。唐沢君は九州に帰って、ナンパに明け暮れるんだって。」そう言いながら唐沢を睨みつけた。
「そんなこと言ってないだろ。」唐沢の顔が真っ赤になっていた。
「オレは今年もバイトだよ。」
ぼくは、そう答えながら、唐沢の様子を見て思わず笑ってしまった。
「バイトっていつもじゃない。」
そんなぼくに向かって、鮎川がまじめな顔のまま口を挟んだ。
「いつものじゃなくて、ダム造りだよ。今年は岐阜に行くんだ。」
「岐阜?」彼女たちは声を合わせるように叫んでいた。「岐阜ってどこだっけ?」
「オマエら岐阜もわかんないのかよ。」そう言って唐沢が大まかな場所などを彼女たちに(というか、ほとんど広石さんにだが)説明し始めた。
「オマエらって言ったよ、この人。」
鮎川が責めるようにぼくに小声でささやいた。
「福岡じゃ普通にオマエって言うんだよ。悪気はないんだ。」
「ケータローも言うの?オマエって。」
「言うことはあるよ。こっちに出てきてからはあまり使わないけど。」
「ふーん。でもケータローにならオマエって言われてもいいかも。“オマエら”はやだけど。」
そう言って笑う鮎川を見ていると、さっきまでの会話が頭の中で何回も繰り返され、どんどん自己嫌悪に落ちていきそうだった。
「どうしたの?」
覗き込む彼女の少し心配したような顔が、そんなぼくの胸を刺した。
「いや、何でもないよ。」
「そう?だったらいいんだけど。ねえ、岐阜っていつから行くの?」
「明後日には発つよ。高速バスで行って、1日あけて、次の日からドカタ。」
「そっかぁ。いつ帰ってくるの?」
ぼくはしばらく考えた。
「講義が始まるのが21日の月曜だから、その前の週には帰ってこないとね。」
「21日って、9月の?そんなに行ったっきりなの?」
「そうだね。こっちにいてもすること無いし。金いるし。」
「だって、バイトしてるんでしょ、今も。そっちはどうするのよ。」
「うん、辞めるって言ったら、その期間休んで良いって。夏休みの間は、結構人手足りるんだよ。」
「そうなんだ。」鮎川はジョッキのチューライムを飲み干した。「じゃあ、今夜はとことん飲もう。」
そう言ってぼくのジョッキを無理やり空けさせて、5杯目の生ビールと3杯目のチューライムを注文した。
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by ktaro1414 | 2007-05-29 18:15 | STORY

小説50

 ぼくたちは、高田馬場へと出た。いつもの白木屋に入り、唐沢の仕切りで乾杯をさせられ、そしてあっという間に唐沢は広石さんとふたりきりの世界へと入っていった。
「あのふたり、つきあってんのかな?」ぼくは、何となくつぶやくように言った。学食での鮎川の様子が気になって何となく話しかけづらかったからだ。
「どうだろう。別に美幸も嫌いってわけじゃなさそうだけど、つきあってるって感じじゃないんじゃないかな。」
「だよな。でも、彼女、かなり雰囲気変わったよなぁ。髪のせいだろうけど。」
「うん。なんだか、ますます女の子らしくなったよね。」
「以前は男の子みたいな感じだった。」
「そんなことないわよ。」少しだけ責めるような口調になっていて、ぼくはちょっと驚いた。「見た目だけで判断するのよね、男って。」
「いや、そんなこと言ってないよ。ただ見た目がボーイッシュだったって言う意味で・・・」そう弁解するように言った後、なぜぼくが弁解しなければいけないのかと少しだけムッとした。そして、鮎川もその後、口をつぐんでしまった。再び、気まずい空気が流れた。
 唐沢は相変わらず広石さんの方に向かってやたらと何かを話しており、広石さんはというと、これが意外にも嫌そうなそぶりを見せることなく(どちらかといえば楽しそうに見えた)、唐沢の話に頷いたり、時に笑ったりしていた。ぼくには、そんな唐沢がやっぱり羨ましかった。
「ねえ、」そんなふたりを眺めているぼくの顔を、いつの間にか覗き込むようにして鮎川が見ていた。
「なに?」驚いたそぶりを見せぬようぼくは応えた。
「ねえ、彼女、出来たでしょ?」
「えっ?」今度は明らかに驚いてしまった。「出来てないよ。どうして?」思わず豊田瀬梨香の顔が浮かんだ。なんかこれと似たようで、全く逆のことがあったような気がして、思わず苦笑いしそうになった。
「んー、そうねぇ、何となくかな。女の直感ってやつ?こないだ会ったあの娘、彼女なんじゃないの?」
「ああ、あの娘かぁ。」ぼくは少しほっとしていた。「あの娘はそんなんじゃないよ。ただ一緒に飲んだだけだから。」
「そうなの。じゃあ他にいるんだ。」
「だから、彼女なんかいないって。なんかつっかかるよな、今日は。」
ホントにそう思っていた。
「ホントにいない?」彼女がぼくの目を鋭い視線で見つめていた。ぼくは少したじろいだが、きっぱりと言った。
「いないよ。」
心がちょっぴり痛んだ。
「そう、じゃあ信じてあげる。」
そう言って笑う彼女の顔を見て、ぼくはドキッとした。そしてさっきよりもう少し心が痛んだ。
「そんなことより、そっちの方こそ彼氏出来たんだろ?」
そう言ってしまった後、ぼくは自分の過ちに気付いた。早く話題を変えようと思ったのだが、これではますます深みにはまってしまいそうだ。鮎川はびっくりしたような、それでいてある程度予想していたような目でぼくを見ていた。ぼくはちらっとだけ彼女の方へ視線を向け、そしてすぐに手元のグラスへと戻した。奥の方では、やはり学生たちがコンパをしている様子で、一気のかけ声や歓声が上がっていた。
「彼は、・・・前川君は彼氏なんかじゃないよ。」しばらく間があって、鮎川が話し始めた。「3年になってからゼミが一緒なの。だから、たまに一緒にランチしたり、他のゼミの人たちと飲みに行ったりすることはあるけど、ステディな関係とか、そういうのじゃないの。前川君とは、ホントに何でもないの。」
「そうなんだ。」とだけぼくは言った。たぶんそれは嘘なんかじゃなく本当のことなんだろう。でも、それまでと比べて早口で否定する鮎川の様子を見て、ステディな関係ではないのだろうが、何でもない関係でもないのだろうということはぼくにもわかった。もちろん、そんなことは一言も口にはしなかったけれど。そういう意味では、先程のぼくの弁明の方が、はるかに嘘に近いものだとわかっていたから。
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by ktaro1414 | 2007-05-21 19:32 | STORY

小説49

 学食に入り、ぼくはふたり分のコーヒーを買って先にテーブルについた鮎川の目の前にそのひとつを置いた。
「ありがとう。」
それだけ言って、彼女は外をぼんやりと見ていた。ぼくは、彼女が何か言いたそうにしているような気がしたが、気づかないふりをした。ぼくは居心地の悪さを感じ、こんな事ならひとりで時間をつぶしていた方がよっぽど良かったな、などと思ったりしていた。
「ねえ、」そんなとき、突然彼女が口を開いた。「最近、私のこと避けてたでしょ、キミ。」顔は外の方をむいたままだ。
「そんなことないよ。どちらかというと、キミの方がぼくを避けてた様に思えるんだけど。というか、何か怒ってるような気がしてた。」
「なにか怒られるようなことをしたの?」
「してない、と思うけど。」
「ふーん。だったら私が怒る事なんてないんじゃない?」
ぼくはしばらく考えた。でも、そう感じたのは事実だ。
「でも、そんな気がしたんだ。ぼくは避けてなんかない。」
「ふーん。」それきり彼女も何も言わなかった。
 しばらくして唐沢が女の子を連れて現れた。以前、一緒に飲みに行った鮎川の友だちのボーイッシュ君だった。(広石という名前なのだがこのときは思い出せなかった。)彼女は、髪を伸ばしたらしく、もうボーイッシュな面影はなく、とてもかわいい女の子になっていた。
「なんだよ唐沢。」ぼくがひとりじゃないのを少し責めるように言うのとほぼ同時に、鮎川も口を開いていた。
「あれ、美幸なにしてんの?」(彼女は広石美幸という名前だったことをこのとき思い出した。)
「いや、飲み行くっていったらついてくるって言うからさ。」そう言う唐沢を制するように広石美幸が鮎川に向かって答えた。
「唐沢君が飲みに行くから来いって。」そう言いながら唐沢に怒ったような視線を送った。
「ま、そう言うこと。っていうよりオマエだって鮎川ちゃんと一緒じゃん。」
ぼくは「確かに」と心の中でつぶやきながら、言い返した。
「こっちは、たまたまさっき会って、学食で時間つぶすって言ったらつきあってくれたんだよ。」
唐沢は鮎川の方へ「ホントに?」といった視線を向けたが、鮎川は何も言わず小さく頷いた。
「ふーん、まあいいじゃん。せっかく4人揃ったんだからみんなで飲みに行こうぜ。ぱぁーっと、夏休み突入のお祝い。」
相変わらず唐沢の調子の良さには呆れてしまう。ぼくは、先程からの鮎川の感じでは彼女はついてこないだろうと予想し、さっきの様な気まずい雰囲気になるくらいならその方がいいと思ったし、たぶん何処かで前川が待っているだろうとも考えていた。しかし、意外にも彼女は、唐沢のその提案に乗ってきた。
「美幸も行くんでしょ?だったら、ぱぁーっと行きますか。」と唐沢の口調を真似して。
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by ktaro1414 | 2007-05-11 12:12 | STORY