小説85

 季節は秋になり、街中はすでに冬支度を始めようとしていた。少し前まで、その肌を自慢するようないでたちで歩いていた女性たちは、いつの間にか自分のコーディネートを誇らしげに主張しあっていた。
 あのバイト先での一件以来、豊田香穂里には全く会っていない。いや、正確に言うと、あの後2~3度店に現れたらしいが、たまたまぼくがシフトに入っていない日だったため会わずにすんでいたし、一度はぼくが早番上がりの日で、バイクで帰ろうとしたところに香穂里が現れたが、ぼくは無視して走り去ることができた。その間ぼくは、ほぼ毎日学校に通い、夜はシフト通りにバイトに入った(あの日、制服のまま帰ったことで香月には嫌みを言われたけれども)。たまには、唐沢たちと(というか唐沢と、と言った方が正しい)飲みにも行ったし、洗濯も掃除もきちんとこなした。つまり、見た目上は何もなかったように過ごす事が出来ていた。それでも、豊田香穂里に対するぼくの怒りは、あの日から3週間あまりがたった今も全く収まることはなかった。怒りと何とも言えないむなしさがぼくを覆い尽くしているようだった。いや、本当はそんな豊田香穂里に(その時は瀬梨香だと思っていた女に)智絵美の話をしてしまった自分が一番許せないのかもしれなかった。
[PR]
by ktaro1414 | 2008-06-11 18:03 | STORY