小説84

「ねえ、待ってよ。」そう言ってバイクの前に立ちはだかった。「何があったの?何かいやなことでも言われた?堀口さんから」
「どういう事なんだ」
「どういう事って?」
「人のことをおもしろがってネタなんかにしやがって」
豊田香穂里はふうっと息をつき、まるで駄々をこねる子どもをあやすような口調でいった。
「そのことね。黙っていたのは悪かったと思うわ。ごめんなさい。でも、ネタにしたとかそう言う事じゃないの。キミは自分では気づいていないかもしれないけど、なにか人を惹きつけるものを持ってるのね。キミのそういうところを表現してみたかったの」
「表現してみたかった?ふざけんなっ。」怒りで全身がひどく震えていた。
「ふざけてなんかない」
「うるさい。なんであんたみたいな女がオレに近づいてきたのかがやっとわかった。小説にするネタが欲しかったんだな」
「ねぇ、聞いて」ぼくの怒りがようやく伝わったのか、香穂里の声が上ずっていた。「この店で最初にあなたにあった時からすごく興味を持ったの。そして、どんどんあなたに惹かれていったのは事実よ。ほんとにあなたは魅力的なのよ。だから、それを表現したかっただけ・・・」
ぼくはもう何も言わず、バイクに跨った。
「ちょっと待ってよ。すぐに戻るから、ここで待ってて。ご飯でも食べに行ってゆっくり話しましょう」
ぼくは無言でイグニッションを回しエンジンをかけた。
「ちょっと待ちなさい。あなたお酒飲んでるでしょ。私が送っていくからバイクは置いて・・・」
ぼくは香穂里を振り切るようにバイクを発進させた。
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by ktaro1414 | 2008-06-04 12:00 | STORY