小説82

「ただ、」スタッフがもってきた新しいグラスを“銀座”から受け取りながら、堀口は続けた。「ざっくりとした話では、都内の大学に通っている大学生、ディスコで働いていて、バイクに乗っている。それと、そのバイクの事故で昔彼女が亡くなった。彼女の故意による事故が原因だった。あんたのことじゃないのか?」
一瞬、辺りの音が全て消えた。もちろん、実際に消えたわけではないのだろうけど。すーっと、血の気が引いていき、その何倍もの勢いで頭に血が上ってきた。どうしようのない怒りがコントロール不可能な程のスピードで膨らんで、そしてはじけた。
「ばかげてるっ」
辺りの風景が一瞬ストップモーションのように止まった。VIPルームのソファに腰掛けた全ての人間がぼくの方を見ていた。もちろん、豊田香穂里も。ぼくは、思わず立ち上がっていた。両の拳は痛い程に握りしめられて、爪が手のひらに食い込む程だった。
[PR]
by ktaro1414 | 2008-05-26 12:01 | STORY