小説69

 それからさらに数週間が過ぎた金曜日の夜。ぼくはいつものようにバイトに入っていた。この日は、金曜日とはいえ普段にもまして客の出入りが激しく、夜の11時をまわった頃にはかなりくたくたになっていた(エントランスは見た目暇そうに見えるが、お客様が来るたびに階段の上り下りをしなければならず、意外とハードなのだ)。
 そんな客の出入りが少し落ち着いてきて、相方のタカシがタバコを吸いに行ってもいいかとぼくに訊き、ぼくが軽くうなずいてOKの意志を伝え、「サンキュ」といって彼が階段を下りて行ったちょうどその時、店の前に2台のタクシーが止まり、降りた客がこちらへと歩いてきた。もう既に1~2軒まわってきたらしいその一団は、なにやら大きな声で話しながらこちらへと近づいてきた。
「VIPルームに通してもらえる?」その中のひとりがぼくに向かって言った。それは語尾が上がり、一応疑問型の体をなしてはいたが、明らかにその可否を伺うといったものではなかった。
「あいにく、VIPルームはご予約制となっておりますので・・・」
ぼくがそう言うのを遮るようにうしろにいた若い男が叫んだ。
「いいから通せって言ってんだろ。こいつオレたちのこと知らないのかねぇ。」
どこかで見たことのあるような顔だったが、誰だったか思い出そうとすると似たような顔が10コぐらい頭に浮かんできて、ぼくは小さく首を振ってそれらを頭の中から払いのけた。取りあえずぼくは今のこの状況をヘッドセットのトランシーバーを通してフロアマネージャーの香月に伝えることにした。ぼくの報告を受けた香月は、何も言わずエントランスへ駆けつけてきた。後からタカシも階段を上がってきていた。
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by ktaro1414 | 2007-10-26 18:56 | STORY