小説67

「逃げなくったっていいでしょ」そう言って早足でぼくの横に並んできた。
「逃げてなんかないよ。逃げる理由なんかないだろ」そう言いながらもぼくの足は無意識に速くなっていた。
「今から昼飯喰うんだ、学食で」
「大丈夫よ、一緒に食べようなんて言わないから」
胸がちくりと痛んだ。ぼくは頭のどこかでこれから一緒に学食で昼食を取り、その間ずーっとこの件について責められることをある意味期待していたのかもしれない。しかし、こんなぼくとはもう一緒に食事なんかしたくないという、彼女の意思表示だと思えた。
「怒ってるの?」ぼくは思わずそう口にしていた。
「怒ってる?私が?どうして?」そう言って彼女の足が止まった。「でも、怒られるかもしれないと思うようなことはやったって事ね」
ぼくは、何も言えなかった。でも、そんなことは関係ないというように彼女は続けた。
「それはそうよね。あんな昼下がりの時間に寝癖のついた頭で部屋から出てきて、女の人といちゃいちゃしてるくらいだから」
絶句した。彼女はぼくたちをちらっと見かけたのではなく、あの日のロビーでのやりとり、その一部始終を見ていたのだ。
「どうして・・・」
ぼくは言葉がつなげなかった。
「まあ、関係ないでしょうけど。あの日、私の従姉妹の結婚式だったの。あのホテルで」
それだけ言って、彼女は足早にぼくのもとから去っていった。
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by ktaro1414 | 2007-10-17 19:42 | STORY