小説55

 新宿駅の西口で高速バスを降り、西武新宿線に乗り換え、ようやくぼくのアパートに着いたときには、もうすっかり日が暮れてしまっていた。ドアを開け入った部屋の中は、60日分の咽せるような真夏の空気が充満していた。ぼくは、部屋と台所の窓を開け、荷物を下ろし、洗面所で顔を洗った。そこには、昨日までの工事現場の泥が染みついたように真っ黒になったぼくの顔があった。とりあえず、近くのコンビニで買ってきた缶ビールを空け一息に半分ぐらいを流し込み、赤くランプが点滅している留守番電話のボタンを押した。「26件です。」と、聞き慣れた女の乾いた声がした後に、録音テープが回り出した。夏休みに帰ってこない息子に愚痴をこぼす母親の声、小学生用の教材がいかにすばらしいかを簡潔に話す男のセールストーク、何も言わずに切れる受話器の音、それらが淡々と再生されていった。テープが終わりに近づいた時、明るい女の子の声が流れてきた。鮎川だった。
「ピーッ。優菜です。戻ってきたら連絡ください。ピーッ」
[PR]
by ktaro1414 | 2007-06-25 12:29 | STORY