小説34

「でも、もうそろそろ帰った方がいいんじゃないかな。電車もなくなっちゃうし。」
「そうね。そう言えば何か用事があったんじゃなかった?」
「ごめん、オレのも嘘なんだ。」そう言って、ふたりで笑った。
マスターに精算を頼みぼくが支払おうとすると、すっと彼女が1万円札を出した。
「いいよ、オレばっかり飲んでるから。」
「大丈夫、学生さんでしょ。」
「いや、いいって。なんか子供扱いされてるみたいでやだし。」
「わかった、じゃあ割り勘で。」
そう言って彼女はぼくから千円札を2枚だけ受け取った。
 駅に向かって歩きながら、何気なくぼくは訊ねた。
「高円寺からどうやって帰るの?」
「中野で東西線に乗り換え。西葛西なの、寮。」
「西葛西かあ。あっ、それ言っちゃ駄目なんじゃないの?」
「ホントはね。」彼女は笑いながら言った。「でも、それだけじゃ場所までは解らないでしょ?それに、危ない人じゃなさそうだし。」
 ぼくたちは、高円寺から同じ電車に乗り、そして彼女は中野で降りた。ドアが閉まると、彼女は笑顔で手を振った。ぼくは、少しだけ手を挙げただけだった。
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by ktaro1414 | 2007-01-04 12:31 | STORY