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忘れた頃に、突然更新


by ktaro1414
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小説25

                         第4章

 季節はいつの間にか梅雨に突入していた。毎日鬱陶しい雨の日が続き、ぼくの洗濯物の山は日に日に大きくなっていった。
 あの日以来、鮎川優菜にも豊田瀬梨香にも会っていない。豊田瀬梨香については、ただあれ以来ぼくのバイト先に来ていないだけのことだろう(もちろんぼくの入っていないときに来店している可能性はある)。でも、鮎川優菜とは、大学に行けば講義などで顔を会わせる事になるのだろうけど、ぼくがしばらく大学を休んでいたためそれもなかった。母方の祖母が亡くなり、その関係で実家に二週間ほど帰っていたためだ。しかし、そんなことに関係なく彼女とは何となく顔を会わせづらかった。それが、単に気まずさからくるものなのか、あるいはもっと他の感情からくるものなのか、ぼくには解らなかった。
 ぼくは、講義の間は出来るだけ目立たない場所を探し、昼食も学食は避け、キャンパス内もあまり歩かないように気をつけた。まるで何か悪いことをしでかした子供のように。たぶんそのせいだろう、唐沢とも顔を合わせることがなく、当然会話を交わすことなど全くなかった。
 そんな唐沢と、久しぶりに会ったのは、あいつがぼくの留守番電話にメッセージを入れた日だった(ぼくも来年の就職活動に向けて留守番電話を買ったのだ)。その日、講義を終えて部屋にもどったぼくが、シャツを脱ぎながら留守番電話のボタンを押すと、ひどくはしゃいだ唐沢の声が暗く沈んだ部屋の中で響いた。
「お前、なにしてんだよ。学校でも見ないし。今夜空いてるか?空いてるよな。今夜オレ様が合コンを仕込んであげたのでスケジュールを調整して来なさい。驚くなよ。なーんと、スチュワーデスです。んー、ホントはタマゴだけど。とにかく、ツー」。途中で途切れた留守電を睨みながら、ぼくは着替えを終えた。電話機は二度電子音を鳴らした後、再び唐沢の声を響かせ出した。
「悪い、悪い。今度は簡潔に言うから。で、今日の合コン、7時に高円寺の南口の前ね。高円寺の南口出たらロータリーがあるだろ。そのロータリーの真ん中の当たりに・・・、え?何言ってんだよ、わかってるから、お前は黙ってろって。あ、ごめん。でな、何で高円寺かっていうと・・・ツー」再び唐沢の声が途切れた。もう一度聞こえてくるだろう唐沢の声をぼくは待ったが、それまでの電子音より長い「ピー」という音を発した後、電話機はまるで寿命を迎えたかのような深い沈黙へと戻っていった。ぼくは腕時計を見た。午後5時を少し回ったところだった。スチュワーデスのタマゴというのに反応したわけではないが、たまたまこの日はバイトもなく、まあ行ってもいいかなと、そう思った。
by ktaro1414 | 2006-12-01 08:22 | STORY