小説16

 結局、ぼくの入院生活は一ヶ月半続いた。左鎖骨骨折、右大腿部亀裂骨折及び裂傷、右側頭部打撲及び裂傷、そのほか傷大小多数。あれだけの事故の割に比較的無事だったのは、ぼくが落下した場所が柔らかい土の多い場所だった事によるらしい。しかしバイクは大破で廃車、学校は無期停学となった(とは言っても十日ほどで解けたらしく、入院期間の方がはるかに長かった)。
 そんなことよりも、ぼくには彼女を失ったという事実が現実感を伴わずにぼくの体中で渦巻いていた。あの日訪れた若い刑事の話によると、彼女はほとんど外傷らしい外傷はなく、見た目にははるかにぼくの方がひどい状況で、最初に発見してくれたドライバーもぼくの方が死んだと思ったらしい。しかし、救急車が到着した時点ですでに息はなく、よほど打ち所が悪かったのだろうと淡々と教えてくれた。
 退院すれば今度は刑事的な処罰がぼくに下されるであろうことは解っていた。でも、そういった何もかもがぼくにとってはどうでも良いことだった。ぼくが彼女を死なせてしまった、一人きりで死なせてしまった、そのことだけがぼくに関係のある唯一のことだった。
 退院の日が近づいてきたある日(とても天気が良い水曜日だったと思う)、ぼくの病室をひとりの女性が訪れた。ひどく憔悴しきったその女性は紛れもなく智絵美の母親だった。ぼくの看病に付き添っていたぼくの母親も、そしてぼく自身も彼女に対して何を言って良いか解らず、ぼくは彼女から浴びるであろう責めの言葉をひたすら受け止める覚悟だけをして彼女の方へ体を向けた。しかし、彼女のとった行動にぼくもぼくの母親もそれが何を意味するのか理解出来なかった。彼女は突然深く腰を折り曲げ、ぼくたちに「なんと言ってお詫びすればいいのか解りません。申しわけありません。」と言って泣き崩れた。ぼくの母親がそんな彼女を抱きかかえ、とりあえず病室の外へと連れ出した。その後、以前にも来た例の刑事ふたりが現れこの状況を説明してくれた。つまり、智絵美の部屋から遺書らしきものが発見され、その中でぼくと一緒に死ぬ(若い刑事はぼくを道ずれにと言った)と書いてあり、ぼくの証言と照らし合わせると、今回の件はぼくの引き起こした事故ではなく、彼女の引き起こした事件であると断定されたということだった。「つまりキミは無罪放免ってわけだよ。」良かったねという感じで微笑みながらその若い刑事が言った。ぼくはそんな彼の言葉に吐き気をもよおし視線を逸らした。ぼくは彼女と一緒に死んであげるべきだったのだ。そう約束したのに(死ぬことだとは思っていなかったが)。
 彼女との約束を守れず、彼女を失って、文字通りひとりぼっちになってしまったぼくは、以前にも増して人と関わりを持つことを避け、ひとりきりの世界に閉じこもっていった。そうやって、ぼくの高校生活は終わった。
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by ktaro1414 | 2006-10-31 08:11 | STORY