小説11

 ぼくたちは再びバイクに跨り、赤い大きな橋を渡って、国道から細い坂道へと入った。しばらく民家の間を縫うように上っていくと、ほぼ行き止まりのようにしてぼくらの目指す旅館に到着した。フロントででたらめな住所と名前を記入し、仲居さんについて部屋に入った。そしてぼくたちはすぐに温泉へと向かった。ふたりとも汗で体中がベトベトで、とにかく体を流したかった。ぼくは1時間ほど温泉に入り部屋に戻った。彼女はまだ上がってきていなかったので、ぼくは冷蔵庫からビールを取り出しグラスに注いだ。そして窓を開けて外を眺めた。日はかなり傾いて、もう少しで山の陰に隠れそうだった。
 しばらくして、部屋のドアが開き仲居さんが入ってきた。夕食の準備をしていいかと訊かれたので、ぼくは「お願いします」と言った。彼女はまだ戻ってきてはいなかったが、もうそろそろ戻るだろうと思ったのだ。仲居さんが準備をしている間、ぼくは何となく部屋の中に居づらかったので「ちょっと散歩してきます」と言って部屋を出た。少しだけ彼女のことが心配になり始めてもいたからだ。
 旅館の前の道を少し歩いたところに滝がある。ぼくは前にも来たことがあったので、何となくそちらの方に歩いてみた。ガードレールに腰掛けて彼女が滝を見ていた。ぼくは何も言わずに彼女の隣に腰を下ろした。
「滝って近くで見てると細かいキリみたいなのが飛んで来て気持ちいいでしょ。これって水だけじゃなくて精神的に良くなる成分があるんだって。」
「へぇ~、知らなかった。」ぼくは一度彼女を見て、もう一度滝に目を戻して言った。「もう夕食の準備が出来てると思うよ。部屋に戻らない?」
「そうね。」
 部屋に戻ってみると夕食の支度は完全に整っていた。すぐに仲居さんが来て、陶器の器がのった固形燃料に火をつけてくれた。ぼくはビールを1本冷蔵庫から取り出し、仲居さんに熱燗を2本お願いした。仲居さんが部屋を出るのを待ってぼくたちはビールの栓を抜き、ぼくが彼女のグラスに注ぎ、彼女がぼくのグラスに注いでくれた。「乾杯。」ぼくたちはグラスを合わせ、ぼくは一気に、彼女は半分ほどグラスを空けた。ちょうどビールが空になったころお銚子が2本届いた。仲居さんはしばらくぼくたちを交互に眺めた後、「何かあったらそこの電話で呼んでください。」と言って出ていった。ぼくたちは、顔を見合わせて少しだけ笑った。彼女がぼくに熱燗を注してくれた。ぼくはそんな彼女の姿に見とれていた。浴衣を着た彼女の頬はうっすらと淡いピンクに染まり、後に束ねた髪はまだ少し濡れていた。ずっと見つめているぼくの視線に気付いた彼女は「そんなに見ないでよ。」と言ってふくれて見せた。ぼくはそれでも彼女に見とれたまま、彼女に熱燗を指し返した。
 夕食を終え、ぼくたちはもう一度風呂にはいることにした。ぼくは電話で食事が終わったことを伝え、二人で入れる風呂があるか訊いてみた。仲居さんは、家族風呂なら別料金だが二人で入れ、それほど大きくはないけど露天風呂であることを教えてくれた。ぼくはその家族風呂をお願いし、二人で入ることにした。ぼくたちはお互いに背中を流し合い、湯船に浸かって満天の星空を眺めた。
 部屋に戻るとふたつの布団が綺麗に並べられていた。ぼくは何となく気恥ずかしかったが、彼女は特になにも感じてはいないようだった。ぼくは冷蔵庫からもう一度ビール取り出し飲んだ。彼女にも勧めたが「いらない。」とのことだった。先に彼女が布団の中に入った。しばらくぼくは窓辺でビールを飲み、遅れて彼女の入った布団に潜り込んだ。彼女は「声が外に漏れるからダメ」だといったがぼくはかまわず彼女を抱きしめた。しばらく彼女はぼくの腕を押さえていたが、すぐに力を緩め少しずつ息が荒くなっていった。
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by ktaro1414 | 2006-10-11 11:42 | STORY