小説3

 やがて彼らの会話はこれからカラオケに行こうということでまとまり始め、そろそろ潮時だなと、ぼくは食べ終わったトレーを持って立ち上がった。彼らは再びこちらに視線を送ったが、特に何か言ってくる様子はなく、すぐに視線を彼女の方へ戻し何もなかったかのように話し始めた。ぼくがトレーを返却口に置き学食の外へ出ようとした瞬間、彼女がぼくを呼び止めた。
「ちょっと待ってよ。」
ぼくが振り向くより先に彼女がぼくの腕を掴まえた。
「どうしたの?なんにも言わずに行くことないでしょ?」
「別にどうもしないよ。話が盛り上がってたから邪魔しちゃ悪いかなと思ってさ。」
ぼくはそう言いながら歩き出した。
「怒ったの?」
「どうして?どうしてぼくが怒るんだよ。」
「だって、怒ってるみたいに見えるよ。」
「怒ってなんかないよ。」
そう言いながら歩いている間、彼女はぼくの腕を掴んだままだった。他の人からは、ぼくらがまるで腕を組んで歩いているように見えたかもしれない。
「友達は?」
「うん、なんか今からカラオケに行くんだって。」
「一緒に行くんじゃないのか?」
「ううん。行かないよ。」
「どうして?」
「どうしても。別に今は行きたくないから。行って欲しかったの?」
「別に。」
「ふーん。ねえ、今からどうするの?」
6時からのバイトまでまだかなり時間があった。
「バイトまで特に予定もないから、部屋に帰って昼寝でもするかな。」
「キミ、どこに住んでるの?」
「新井。新井薬師前の近く。」
「へえ、近いんだ。一人暮らしだよね?」
「うん。」
「ふーん。食事とかどうしてるの?」
「バイトの日は、店で出るから。」
「他の日は?外食ばっかり?」
「そうかな。」
いつの間にかぼくたちは校門を出て駐輪場まで歩いていた。
「ねえ、今から私もキミの部屋に行ってもいいでしょ?」
「無理だよ。すごく散らかってるんだ。それにぼくはこれだし。」ぼくは自分のバイクを指さしながら彼女に言った。
「バイク乗るんだ。これナナハン?」
「400だよ。」
「じゃあさ、これでどこかに連れて行ってよ。」
「ダメだ。」ぼくは思わず大きな声になっていた。彼女も少し驚いてぼくの顔を見ていた。「いや、タンデムはやらないんだ。メットも無いし。ごめん。」
「ふーん。」彼女は少し怒ったようにも見えた。でも仕方がない。ぼくはタンデムはやらないんだ。もう2度と。「それじゃあ、電話番号教えてよ。」彼女はバックの中から手帳を取りだしぼくの番号を書き込んだ。そして1枚ページを破ってぼくに手渡した。
「私の部屋の番号。電話してね。」
「ああ。」
ぼくはバイクに跨りキーを差し込んでエンジンをかけた。「それじゃあ。」ぼくが言うと彼女は軽く手を振った。ゆっくりとクラッチをつなぎバイクが動き出したとき、彼女の口が大きく動いた。
「キミといたかったから断ったんだからね。」
ぼくはバックミラーで彼女の姿を追った。彼女はすでに振り向いて駅の方へと歩き始めていた。
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by ktaro1414 | 2006-09-11 14:33 | STORY