忘れた頃に、突然更新


by ktaro1414
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小説77

「彼女は瀬梨香ですよ。豊田瀬梨香。変な名前ですけどね。最初は嘘だと思いましたよ。」ぼくの頭は少しずつ混乱し始めていた。
「ああ、本名はな。でもこの世界では豊田カオリだよ。知らなかったのか?」
豊田カオリ?瀬梨香じゃなくて?ぼくの混乱は一気にアクセルを踏み込んだように加速していった。
「本名?じゃあ彼女は芸能人なんですか?」
「本気で言っているのか」その時、株成金いや堀口は初めてぼくの目を見た。「本当みたいだな。そうか、そんなことも知らずにカオリとつきあっていたのか」
「別につきあってなんかいませんよ」
そう言って、ぼくは次を待った。堀口は空になったグラスをスタッフの方に向けて、おかわりを催促した。ぼくは苛つきを押さえて次の言葉を待っていた。新しいグラスが運んでこられ、それに少し口を付けた後、ようやく堀口が口を開いた。
「小説家だよ、カオリは。」
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# by ktaro1414 | 2008-04-22 08:36 | STORY

小説76

思わず声が大きくなっていたらしい。それぞれ会話していた新ドラマメンバーが一斉にぼくに顔を向けた。しかし、すぐに元の状態に戻っていった。株成金は何も言わなかった。無視するつもりかと思い、もう一度息を吸い込んで同じ言葉を言おうとしたときだった。
「オレが会いたいと思ったんだよ、あんたに。カオリが気に入って小説の題材にまですることにした男がどんな奴か知りたくてね。」かおり?小説家の本当の名前はカオリというらしい。もちろん“池袋”などという名前であるはずはない。当然だ。しかしぼくは“池袋”にもカオリにも会ったことはない。
「ぼくは会ったことありませんけどね、彼女には。」
「そんなわけはない。つまらん嘘をつくね、あんたは。」相変わらず株成金はこっちを見ない。
「ぼくがあなたに嘘をつく必要なんか全くありませんね。」少しだけ苛立ちながらぼくは言った。「あの人に会ったのは今日が初めてです。」そう言ってぼくは“池袋”の方に顔を向けた。
「何を言っているんだ。カオリはこっちだろ。」株成金が顔を向けたのは豊田瀬梨香の方だった。
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# by ktaro1414 | 2008-04-15 12:43 | STORY

小説75

「だいたいこの会は何なんですか?」
ぼくは小さな声で“銀座”に訊いてみた。“銀座”の話によると、“敏腕”のテレビ局で来年から始まるドラマのためにこの中にいるはずの女流作家がストーリーを書き下ろす事になり、その打合せだったと教えてくれた。つまり、ぼくの見当はそれほどはずれていなかったらしい。“銀座”が女流作家のことを「彼女が」と表現したということは、“銀座”ではなく“池袋”が女流作家なのだろう。人は見かけによらないものだ。アイドルは主人公の恋人役で、大学生の設定らしい。豊田瀬梨香は何なのだろう。しかしそれは訊かないことにした。
「で、ぼくは何のためにここに呼ばれているんですかね?」
「さあ、それは私も知らない。ただ堀口さんが呼ぶように言ったみたい。」と言いながら“銀座”はぼくの肩越しに向こうを見た。どうやら株成金は堀口というらしい。彼女にも解らないとなればあとは本人に訊いてみるしか方法はない。ぼくは思いきって堀口という名の株成金の方へ体を向け、そして言った。
「すみません。ぼくは何故ここに呼ばれたんでしょうか?」
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# by ktaro1414 | 2008-04-10 12:27 | STORY

小説74

「あんたがそうなのか。」株成金がブランデーを飲みながら、ぼくを見ることなく言った。ぼくにはその言葉が誰に向けられたものかも、どういう意味なのかも解らなかったので聞き流し、ジントニックを少しだけ飲んだ。その後は、銀座のホステスのように見える女がぼくに色々質問をし、ぼくがそれに適当に答えた。時々“敏腕”が話に割り込んできた。株成金は隣に座ったスーツを着た男と時々話すだけで、ぼくには全く目もくれずただブランデーを飲み、アイドルはその隣に座った若い女(これは池袋あたりの飲み屋で働いていそうだ)とはしゃいでいた。豊田瀬梨香は隣の“敏腕”と話をしていた(ほとんど“敏腕”しか喋っていないようだったが)。目の前のスプモーニは(たぶんスプモーニだったんだと思う)あまり減ることなくすっかり薄くなっていた。ぼくはそんなまわりの様子を眺めながら、“銀座”の香水のにおいとそのつまらない質問に辟易しながら、何杯かジントニックを飲んでいた。
(何のために呼んだんだ)ぼくは心の中でそうつぶやいた。腹の底に少しずつ怒りがこみ上げてきていた。
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# by ktaro1414 | 2008-04-01 15:16 | STORY

小説73

「いえ、自分はスタッフですからそちらには座れません。」迷惑だと、誰が見てもわかるだろうという表情を作って言ってみた。しかし、彼は表情を変えることなくいいから座れよというような目をぼくに向けていた。
「大丈夫だよ。マネージャーには許可を取ってあるから。」と、株成金が言った。豊田瀬梨香は何も言わず、たださっきと同じ少し申し訳なさそう顔をしていた。
「わかりました。」ぼくはそれだけ言って指示されたとおりの場所に座った。
「何か飲む?」ぼくの隣に座っている女が訊いた。その女とその隣に座っている敏腕プロデューサー(これもぼくの見当だが)のふたりだけを切り取ってみると、たぶんみんなそこが銀座か何処かのクラブだと思ってしまうような女だった(本当にそうなのかもしれないが)。ぼくはジントニックを頼み、それを持ってきたスタッフに目だけで申し訳ないと謝った。彼の表情から、オマエも大変だなと同情されているように見えた。
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# by ktaro1414 | 2008-01-08 19:43 | STORY

あ、

あけましておめでとうございます。

(何を今更ですけど・・・・)
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# by ktaro1414 | 2008-01-08 06:39 | その他

小説72

 VIPルームは個室になっているわけではなく、2階と3階にある着席スペースの3階の方にだけ有り、1階のダンスフロアの方にせり出すようにして作られたスペースだ。10人ほどがゆっくりと座れるソファが置かれ、専用のバーカウンターが設置されている。もちろん専属のスタッフ(フロアが担当する)とバーテンがついて、VIPのお相手をすることになっている。ぼくは、そんな場所であんな奴らのお相手をさせられるのかと思うとひどく憂鬱になり、もう一度「やれやれ」と声を出して言ってみた。入口には香月がなぜか慇懃な感じで立っており、ぼくを見ると手招きして耳元で囁いた。
「オレにもよくわからん。とにかくオマエを連れてこいと言ってる。別に怒っている風ではないが、失礼の無いように。」それだけ言ってフロアの方へと降りていった。
「お呼びでしょうか?」ぼくはそう言って深い絨毯の上に足を踏み入れた。中では5人の男と3人の女がゆったりと半円形に置かれたソファに座り、みんなぼくを珍しそうに眺めていた。豊田瀬梨香を除いては。
「キミがそうか。まあ、座りなよ。」足を組んだままそう言ったのはグレーのポロシャツを着て肩にピンクのカーディガンを掛けた、見るからにそれとわかるような男だった。ぼくが座れと言われたのは、腐るほどの金を持った株成金とぼくが見当を付けた男の隣だった。
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# by ktaro1414 | 2007-12-10 12:49 | STORY

小説71

「映画会社で働いてるのかな。」ぼくは、誰に言うともなくそうつぶやいていた。タカシがオマエ何ぶつぶつ言ってんだよ、というような目でぼくを見ていたが特に何も言わなかった。
 午前0時も近くなりそろそろ上がりだなと思っていたとき、ぼくのヘッドセットに香月が呼びかけてきた。
「悪いが、オマエ今からVIPルームに行ってくれ。」
「ぼくはフロアじゃありませんよ。それにそろそろ上がりの時間です。」ぼくにVIPルームで何をしろというんだ。
「いいから行ってくれ。残業は付けておくから。お客様がお呼びなんだよ。いいな。」それだけ言って香月のヘッドセットのスウィッチは切られた。客が呼んでる?誰が?豊田瀬梨香か?まあそうだろう。それ以外にぼくを知っているやつはいない。あるいはさっきのアイドルが、まだ文句を言い足りなくてぼくを呼びつけてもう一度怒鳴ってやろうと思っているのかもしれない。
「やれやれ。」ぼくは口に出して言ってみた。タカシが大変だな、という風にぼくを見た。ああ、という風にぼくもタカシを見た。「じゃあ。おつかれ。」それだけ言ってぼくは階段を下りていった。
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# by ktaro1414 | 2007-11-16 12:24 | STORY

小説70

「大変失礼致しました。今すぐご案内致します。」香月はそう言いながらぼくの頭を押さえ無理やりにお辞儀をさせた。ぼくはひとりひとりに「いらっしゃいませ」と言って頭を下げた。最後の女性に頭を下げて顔を上げるとそれは豊田瀬梨香だった。
「ごめんなさいね。」なんだか本当に申し訳なさそうに彼女は言った。
「お久しぶりですね。いらっしゃいませ。」
「本当にごめんなさい。」
「どうしてお客様がそんなことを仰るんですか?」ぼくは香月の目を気にしながらそれだけ言って、彼女の案内を香月に任せた。香月は少しだけぼくを睨んだ後、わざとらしい笑顔を作って彼女を案内して階段を下りていった。
「なんなんだ、いったい。」戻ってきたタカシにぼくは訊ねた。
「知らないのかよ。」そう言いながらタカシが教えてくれたところによると、ぼくに向かって叫んでいたのが何とかというアイドルグループのひとりで、最近はドラマや映画にも出てかなり人気があるらしい。そして、これは香月から訊いたところによると、と言う注釈付きの情報では、恰幅が良く明らかにあの団体の中で一番偉そうに見えた男が最近兜町の風雲児などともてはやされている何処かの会社の社長で腐るほどの金を持った株成金だということ、ひとりは河田町にあるTV局の敏腕プロデューサーだということ、ひとりは数年前に有名な文学賞を取って最近ではその作品のいくつかが映画化された女流作家だということだった。ということは、その女流作家の作品をまた映画化することになり、それをそのTV局が制作することになって(であれば、たぶん映画会社の人間もあの中にいることになる)、主演か何かにあのアイドルタレントを起用して、恰幅の良い腐るほどの金を持った株成金といわれている男がそのスポンサーになり、今日はその打合せという名の飲み会、つまりそういったところだろうとぼくは見当をつけた。しかし、とぼくは思った。しかし、あの中で豊田瀬梨香の役回りは何なのだろう。ぼくには、彼女がただの取り巻きだとはとても思えなかった。もし誰かにその理由を聞かれても間違いなく答えられないだろうけど、それでもぼくはある種の確信を持ってそう思った。
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# by ktaro1414 | 2007-11-02 19:05 | その他

小説69

 それからさらに数週間が過ぎた金曜日の夜。ぼくはいつものようにバイトに入っていた。この日は、金曜日とはいえ普段にもまして客の出入りが激しく、夜の11時をまわった頃にはかなりくたくたになっていた(エントランスは見た目暇そうに見えるが、お客様が来るたびに階段の上り下りをしなければならず、意外とハードなのだ)。
 そんな客の出入りが少し落ち着いてきて、相方のタカシがタバコを吸いに行ってもいいかとぼくに訊き、ぼくが軽くうなずいてOKの意志を伝え、「サンキュ」といって彼が階段を下りて行ったちょうどその時、店の前に2台のタクシーが止まり、降りた客がこちらへと歩いてきた。もう既に1~2軒まわってきたらしいその一団は、なにやら大きな声で話しながらこちらへと近づいてきた。
「VIPルームに通してもらえる?」その中のひとりがぼくに向かって言った。それは語尾が上がり、一応疑問型の体をなしてはいたが、明らかにその可否を伺うといったものではなかった。
「あいにく、VIPルームはご予約制となっておりますので・・・」
ぼくがそう言うのを遮るようにうしろにいた若い男が叫んだ。
「いいから通せって言ってんだろ。こいつオレたちのこと知らないのかねぇ。」
どこかで見たことのあるような顔だったが、誰だったか思い出そうとすると似たような顔が10コぐらい頭に浮かんできて、ぼくは小さく首を振ってそれらを頭の中から払いのけた。取りあえずぼくは今のこの状況をヘッドセットのトランシーバーを通してフロアマネージャーの香月に伝えることにした。ぼくの報告を受けた香月は、何も言わずエントランスへ駆けつけてきた。後からタカシも階段を上がってきていた。
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# by ktaro1414 | 2007-10-26 18:56 | STORY