忘れた頃に、突然更新


by ktaro1414
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小説86

 そんな10月も終わりに近づいたある日、午前中で講義を終え学食で昼食を摂っていたぼくに唐沢が近づいてきた。両手にあの強敵であるカツ丼がのったトレイを持って。
「今日は終わりか」
そう言いながらぼくの向かいの椅子に腰を下ろした。
「ああ」ぼくはそれだけ言って、残りのみそ汁を飲み干した。
「なんだ、そっけないな。」唐沢は今から戦う強敵との準備のために手のひらをこすりあわせながらぼくを見た。
「オマエに話があったんだよ」
そう言いながら、彼は強敵との戦いを開始した。ぼくはしばらく彼等の戦いの様子を眺めていた。今日の敵は思いのほかポテンシャルを秘めているようで、彼等の戦いは長引きそうだった。
「オマエ、美貴ちゃん憶えてるだろ」途中、休憩するように時々顔を上げて唐沢が口を開いた。
美貴ちゃん?一瞬ぼくは誰のことかわからなかったが、すぐに思いついて答えた。
「美貴ちゃんって、GHの嶋村美貴のことか?」
「そう、その美貴ちゃん。オマエに会いたいって言ってるらしいぞ」
ぼくは、高円寺でのあの短い時間のことを思い出していた。
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# by ktaro1414 | 2008-06-20 13:17 | STORY

小説85

 季節は秋になり、街中はすでに冬支度を始めようとしていた。少し前まで、その肌を自慢するようないでたちで歩いていた女性たちは、いつの間にか自分のコーディネートを誇らしげに主張しあっていた。
 あのバイト先での一件以来、豊田香穂里には全く会っていない。いや、正確に言うと、あの後2~3度店に現れたらしいが、たまたまぼくがシフトに入っていない日だったため会わずにすんでいたし、一度はぼくが早番上がりの日で、バイクで帰ろうとしたところに香穂里が現れたが、ぼくは無視して走り去ることができた。その間ぼくは、ほぼ毎日学校に通い、夜はシフト通りにバイトに入った(あの日、制服のまま帰ったことで香月には嫌みを言われたけれども)。たまには、唐沢たちと(というか唐沢と、と言った方が正しい)飲みにも行ったし、洗濯も掃除もきちんとこなした。つまり、見た目上は何もなかったように過ごす事が出来ていた。それでも、豊田香穂里に対するぼくの怒りは、あの日から3週間あまりがたった今も全く収まることはなかった。怒りと何とも言えないむなしさがぼくを覆い尽くしているようだった。いや、本当はそんな豊田香穂里に(その時は瀬梨香だと思っていた女に)智絵美の話をしてしまった自分が一番許せないのかもしれなかった。
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# by ktaro1414 | 2008-06-11 18:03 | STORY

小説84

「ねえ、待ってよ。」そう言ってバイクの前に立ちはだかった。「何があったの?何かいやなことでも言われた?堀口さんから」
「どういう事なんだ」
「どういう事って?」
「人のことをおもしろがってネタなんかにしやがって」
豊田香穂里はふうっと息をつき、まるで駄々をこねる子どもをあやすような口調でいった。
「そのことね。黙っていたのは悪かったと思うわ。ごめんなさい。でも、ネタにしたとかそう言う事じゃないの。キミは自分では気づいていないかもしれないけど、なにか人を惹きつけるものを持ってるのね。キミのそういうところを表現してみたかったの」
「表現してみたかった?ふざけんなっ。」怒りで全身がひどく震えていた。
「ふざけてなんかない」
「うるさい。なんであんたみたいな女がオレに近づいてきたのかがやっとわかった。小説にするネタが欲しかったんだな」
「ねぇ、聞いて」ぼくの怒りがようやく伝わったのか、香穂里の声が上ずっていた。「この店で最初にあなたにあった時からすごく興味を持ったの。そして、どんどんあなたに惹かれていったのは事実よ。ほんとにあなたは魅力的なのよ。だから、それを表現したかっただけ・・・」
ぼくはもう何も言わず、バイクに跨った。
「ちょっと待ってよ。すぐに戻るから、ここで待ってて。ご飯でも食べに行ってゆっくり話しましょう」
ぼくは無言でイグニッションを回しエンジンをかけた。
「ちょっと待ちなさい。あなたお酒飲んでるでしょ。私が送っていくからバイクは置いて・・・」
ぼくは香穂里を振り切るようにバイクを発進させた。
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# by ktaro1414 | 2008-06-04 12:00 | STORY

あ 

今日、誕生日です。
ゴミゼロの日。
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# by ktaro1414 | 2008-05-30 12:58 | その他

小説83

「何でかい声出してんだよ」
アイドルがぼくに向かって怒鳴ったが、そんなことはどうでも良かったし、実際ぼくの耳には届いていなかったように思う。
「失礼します」
それだけ言って、ぼくがVIPルームを飛びだそうとしたその時、堀口がドスのきいた声で「待て」とぼくを呼び止めた。ぼくは思わず振り返っていた。
「まあ、待て」
もう一度そう言ったあと、“銀座”に何かささやきながら紙切れのようなものを渡し、“銀座”がそれを持ってぼくの方へ近寄ってきてそれをぼくの前に差し出した。
「オレの連絡先だ。何かあったら連絡していい。車の方でも構わんよ」
ぼくはそれを流れで受け取り、堀口に向かってもう一度「失礼します」とだけ言ってその場所を離れた。エントランスへの階段を駆け上がり、「どうなった?」と訊くタカシをほとんど無視してヘルメットをロックからはずしてかぶった。そうしてバイクに跨ろうとしたとき、豊田瀬梨香、いや香穂里が息を切らして駆け寄ってきた。
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# by ktaro1414 | 2008-05-30 11:36 | STORY

小説82

「ただ、」スタッフがもってきた新しいグラスを“銀座”から受け取りながら、堀口は続けた。「ざっくりとした話では、都内の大学に通っている大学生、ディスコで働いていて、バイクに乗っている。それと、そのバイクの事故で昔彼女が亡くなった。彼女の故意による事故が原因だった。あんたのことじゃないのか?」
一瞬、辺りの音が全て消えた。もちろん、実際に消えたわけではないのだろうけど。すーっと、血の気が引いていき、その何倍もの勢いで頭に血が上ってきた。どうしようのない怒りがコントロール不可能な程のスピードで膨らんで、そしてはじけた。
「ばかげてるっ」
辺りの風景が一瞬ストップモーションのように止まった。VIPルームのソファに腰掛けた全ての人間がぼくの方を見ていた。もちろん、豊田香穂里も。ぼくは、思わず立ち上がっていた。両の拳は痛い程に握りしめられて、爪が手のひらに食い込む程だった。
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# by ktaro1414 | 2008-05-26 12:01 | STORY

小説81

「それはそうでしょう。ぼくは特別、特徴のある人間ではないし、なんてことない大学生活を送っているだけですからね。こんなぼくを題材にするなんて信じられませんね」
「信じる信じないは関係ない。オレはそのように香穂里から聞いていて、その男に興味を持った。ただそれだけだ」
突き放すような言い方が少しだけ気に障ったが、それでもぼくは質問を続けた。訊かなければならないことがたくさんあるようで、何を訊けばいいのかがわからなかったけれど。
「じゃあ、教えてもらえますか。ぼくの何が題材になっているのか」
「詳しいことは知らんよ。小説といってもこの映画のためのものだから、シナリオとやらと同時進行らしい。ま、それ以上のことはわからん。オレはただの株屋だからな」そう言って、またグラスをスタッフの方へと掲げ、おかわりを催促した。その様子を見ながら、かなり酒が強いんだな、などと関係ないことを思ったりしていた。
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# by ktaro1414 | 2008-05-20 12:58 | STORY

小説80

「香穂里と書いてカオリと読むんだ。名前なんだからどう読ませても構わんということだろう。」と、珍しく堀口はすぐに返事を寄こしてきた。そんなことはどうでもいい。もっと大事な何かを訊かなければいけないはずだ。そうだ、堀口は「オレが会いたいと思った」と言った。そして、「香穂里が気に入って小説の題材にした男」とも。つまり、その男がぼくだと言うことなのだろうか。
「ぼくを題材にして彼女が小説を書いたというんですか?」
堀口は遠い記憶を探るように少しだけ目を細め、ゆっくりとぼくを見た。
「そのようだな。もちろん、あんたのことをそのまま書いたわけではないだろうがね」
ぼくは、先ほど“銀座”が言っていた言葉を思い出した。アイドルが主人公の恋人役で、大学生の設定だということだった。つまり、あのアイドルが演じるのがぼくだというのか。
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# by ktaro1414 | 2008-05-13 08:45 | STORY

小説79

「すみませんね、本はあまり読まないんです。ついでに教えてもらえませんかね。カオリってどう書くのか」
その時、“銀座”がぼくの前に新しいグラスを置いた。いつの間にかぼくは、ジントニックを飲み干していたらしい。新しくつくられたジントニックを少しだけ口にした後、ぼくは自分を落ち着かすために軽く深呼吸をした。その様子を見ていたのか、堀口が「そんなに興奮するなよ」と言ってたばこをくわえ、そこに“銀座”がすっとライターを差し出して火をつけた。ふと横を見ると“敏腕”の向こうから豊田瀬梨香(豊田カオリと言うべきか)が心配そうにこちらの様子を窺っていた。
「香水の『香』に、稲穂の『穂』、それにふる里の『里』だ」たいしておもしろくもなさそうに、そう堀口が言った。やはりこちらを向くことなく、誰に対して言っているのかがわからない様な感じのままで。
「カオリではなく、カホリなんですか?」そう訊いてしまった後で、そんなことよりも大事なことがあるはずなのにと少しだけ後悔した。
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# by ktaro1414 | 2008-05-07 08:36 | STORY

小説78

何となくそういう予感はあったのかもしれない。その言葉を聞いて、ぼくはほとんど驚くことはなかったから。
「つまりペンネームということですか、カオリっていうのは。いいでしょう。じゃあ彼女は豊田カオリという名前の小説家で本名は瀬梨香だけれど、あなた達の世界では『瀬梨香』ではなく『カオリ』だ」混乱の加速は止まらない。「で、ぼくは豊田瀬梨香としての彼女のことは少しだけ知っているけど小説家だとは全く知らされて無く、ましてや豊田カオリのことなんか全く知らない。そういうことですね」
「まあそういうことになるのかな。しかし、まわりくどい言い方をするね、あんたは。まあ、本名を知っているやつの方が少ないんだからいいじゃないか」
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# by ktaro1414 | 2008-04-28 12:02 | STORY