忘れた頃に、突然更新


by ktaro1414
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30

<   2008年 06月 ( 4 )   > この月の画像一覧

小説87

「オマエ、誰から聞いたんだよ」
たぶんあの娘だろうとは想像ついたが、名前が思い出せなかった。
「ヒロミちゃんに決まってんじゃん」カツを口の中で持て余すようにしながら唐沢が答えた。
「もし会いたいって思ってくれてるとしても連絡先知らないから無理だよ。前にも言っただろ」ぼくはそう言って、コップに水を注ぐために席を立った。オレのも、というふうに唐沢がカツをくわえたまま自分のコップをぼくの方に差し出したので、ぼくはそれを受け取り、両方のコップに水を満たして席に戻った。なんとか戦いに勝利したようで、唐沢がハンカチで口元をぬぐった後、コップを受け取りながら先を続けた。
「それは前にも聞いたよ。オレだってむこうの連絡先知らねーもん」
ぼくは、それを聞いて再びがっかりした。少しだけ。
[PR]
by ktaro1414 | 2008-06-30 18:55 | STORY

小説86

 そんな10月も終わりに近づいたある日、午前中で講義を終え学食で昼食を摂っていたぼくに唐沢が近づいてきた。両手にあの強敵であるカツ丼がのったトレイを持って。
「今日は終わりか」
そう言いながらぼくの向かいの椅子に腰を下ろした。
「ああ」ぼくはそれだけ言って、残りのみそ汁を飲み干した。
「なんだ、そっけないな。」唐沢は今から戦う強敵との準備のために手のひらをこすりあわせながらぼくを見た。
「オマエに話があったんだよ」
そう言いながら、彼は強敵との戦いを開始した。ぼくはしばらく彼等の戦いの様子を眺めていた。今日の敵は思いのほかポテンシャルを秘めているようで、彼等の戦いは長引きそうだった。
「オマエ、美貴ちゃん憶えてるだろ」途中、休憩するように時々顔を上げて唐沢が口を開いた。
美貴ちゃん?一瞬ぼくは誰のことかわからなかったが、すぐに思いついて答えた。
「美貴ちゃんって、GHの嶋村美貴のことか?」
「そう、その美貴ちゃん。オマエに会いたいって言ってるらしいぞ」
ぼくは、高円寺でのあの短い時間のことを思い出していた。
[PR]
by ktaro1414 | 2008-06-20 13:17 | STORY

小説85

 季節は秋になり、街中はすでに冬支度を始めようとしていた。少し前まで、その肌を自慢するようないでたちで歩いていた女性たちは、いつの間にか自分のコーディネートを誇らしげに主張しあっていた。
 あのバイト先での一件以来、豊田香穂里には全く会っていない。いや、正確に言うと、あの後2~3度店に現れたらしいが、たまたまぼくがシフトに入っていない日だったため会わずにすんでいたし、一度はぼくが早番上がりの日で、バイクで帰ろうとしたところに香穂里が現れたが、ぼくは無視して走り去ることができた。その間ぼくは、ほぼ毎日学校に通い、夜はシフト通りにバイトに入った(あの日、制服のまま帰ったことで香月には嫌みを言われたけれども)。たまには、唐沢たちと(というか唐沢と、と言った方が正しい)飲みにも行ったし、洗濯も掃除もきちんとこなした。つまり、見た目上は何もなかったように過ごす事が出来ていた。それでも、豊田香穂里に対するぼくの怒りは、あの日から3週間あまりがたった今も全く収まることはなかった。怒りと何とも言えないむなしさがぼくを覆い尽くしているようだった。いや、本当はそんな豊田香穂里に(その時は瀬梨香だと思っていた女に)智絵美の話をしてしまった自分が一番許せないのかもしれなかった。
[PR]
by ktaro1414 | 2008-06-11 18:03 | STORY

小説84

「ねえ、待ってよ。」そう言ってバイクの前に立ちはだかった。「何があったの?何かいやなことでも言われた?堀口さんから」
「どういう事なんだ」
「どういう事って?」
「人のことをおもしろがってネタなんかにしやがって」
豊田香穂里はふうっと息をつき、まるで駄々をこねる子どもをあやすような口調でいった。
「そのことね。黙っていたのは悪かったと思うわ。ごめんなさい。でも、ネタにしたとかそう言う事じゃないの。キミは自分では気づいていないかもしれないけど、なにか人を惹きつけるものを持ってるのね。キミのそういうところを表現してみたかったの」
「表現してみたかった?ふざけんなっ。」怒りで全身がひどく震えていた。
「ふざけてなんかない」
「うるさい。なんであんたみたいな女がオレに近づいてきたのかがやっとわかった。小説にするネタが欲しかったんだな」
「ねぇ、聞いて」ぼくの怒りがようやく伝わったのか、香穂里の声が上ずっていた。「この店で最初にあなたにあった時からすごく興味を持ったの。そして、どんどんあなたに惹かれていったのは事実よ。ほんとにあなたは魅力的なのよ。だから、それを表現したかっただけ・・・」
ぼくはもう何も言わず、バイクに跨った。
「ちょっと待ってよ。すぐに戻るから、ここで待ってて。ご飯でも食べに行ってゆっくり話しましょう」
ぼくは無言でイグニッションを回しエンジンをかけた。
「ちょっと待ちなさい。あなたお酒飲んでるでしょ。私が送っていくからバイクは置いて・・・」
ぼくは香穂里を振り切るようにバイクを発進させた。
[PR]
by ktaro1414 | 2008-06-04 12:00 | STORY