忘れた頃に、突然更新


by ktaro1414
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小説78

何となくそういう予感はあったのかもしれない。その言葉を聞いて、ぼくはほとんど驚くことはなかったから。
「つまりペンネームということですか、カオリっていうのは。いいでしょう。じゃあ彼女は豊田カオリという名前の小説家で本名は瀬梨香だけれど、あなた達の世界では『瀬梨香』ではなく『カオリ』だ」混乱の加速は止まらない。「で、ぼくは豊田瀬梨香としての彼女のことは少しだけ知っているけど小説家だとは全く知らされて無く、ましてや豊田カオリのことなんか全く知らない。そういうことですね」
「まあそういうことになるのかな。しかし、まわりくどい言い方をするね、あんたは。まあ、本名を知っているやつの方が少ないんだからいいじゃないか」
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by ktaro1414 | 2008-04-28 12:02 | STORY

小説77

「彼女は瀬梨香ですよ。豊田瀬梨香。変な名前ですけどね。最初は嘘だと思いましたよ。」ぼくの頭は少しずつ混乱し始めていた。
「ああ、本名はな。でもこの世界では豊田カオリだよ。知らなかったのか?」
豊田カオリ?瀬梨香じゃなくて?ぼくの混乱は一気にアクセルを踏み込んだように加速していった。
「本名?じゃあ彼女は芸能人なんですか?」
「本気で言っているのか」その時、株成金いや堀口は初めてぼくの目を見た。「本当みたいだな。そうか、そんなことも知らずにカオリとつきあっていたのか」
「別につきあってなんかいませんよ」
そう言って、ぼくは次を待った。堀口は空になったグラスをスタッフの方に向けて、おかわりを催促した。ぼくは苛つきを押さえて次の言葉を待っていた。新しいグラスが運んでこられ、それに少し口を付けた後、ようやく堀口が口を開いた。
「小説家だよ、カオリは。」
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by ktaro1414 | 2008-04-22 08:36 | STORY

小説76

思わず声が大きくなっていたらしい。それぞれ会話していた新ドラマメンバーが一斉にぼくに顔を向けた。しかし、すぐに元の状態に戻っていった。株成金は何も言わなかった。無視するつもりかと思い、もう一度息を吸い込んで同じ言葉を言おうとしたときだった。
「オレが会いたいと思ったんだよ、あんたに。カオリが気に入って小説の題材にまですることにした男がどんな奴か知りたくてね。」かおり?小説家の本当の名前はカオリというらしい。もちろん“池袋”などという名前であるはずはない。当然だ。しかしぼくは“池袋”にもカオリにも会ったことはない。
「ぼくは会ったことありませんけどね、彼女には。」
「そんなわけはない。つまらん嘘をつくね、あんたは。」相変わらず株成金はこっちを見ない。
「ぼくがあなたに嘘をつく必要なんか全くありませんね。」少しだけ苛立ちながらぼくは言った。「あの人に会ったのは今日が初めてです。」そう言ってぼくは“池袋”の方に顔を向けた。
「何を言っているんだ。カオリはこっちだろ。」株成金が顔を向けたのは豊田瀬梨香の方だった。
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by ktaro1414 | 2008-04-15 12:43 | STORY

小説75

「だいたいこの会は何なんですか?」
ぼくは小さな声で“銀座”に訊いてみた。“銀座”の話によると、“敏腕”のテレビ局で来年から始まるドラマのためにこの中にいるはずの女流作家がストーリーを書き下ろす事になり、その打合せだったと教えてくれた。つまり、ぼくの見当はそれほどはずれていなかったらしい。“銀座”が女流作家のことを「彼女が」と表現したということは、“銀座”ではなく“池袋”が女流作家なのだろう。人は見かけによらないものだ。アイドルは主人公の恋人役で、大学生の設定らしい。豊田瀬梨香は何なのだろう。しかしそれは訊かないことにした。
「で、ぼくは何のためにここに呼ばれているんですかね?」
「さあ、それは私も知らない。ただ堀口さんが呼ぶように言ったみたい。」と言いながら“銀座”はぼくの肩越しに向こうを見た。どうやら株成金は堀口というらしい。彼女にも解らないとなればあとは本人に訊いてみるしか方法はない。ぼくは思いきって堀口という名の株成金の方へ体を向け、そして言った。
「すみません。ぼくは何故ここに呼ばれたんでしょうか?」
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by ktaro1414 | 2008-04-10 12:27 | STORY

小説74

「あんたがそうなのか。」株成金がブランデーを飲みながら、ぼくを見ることなく言った。ぼくにはその言葉が誰に向けられたものかも、どういう意味なのかも解らなかったので聞き流し、ジントニックを少しだけ飲んだ。その後は、銀座のホステスのように見える女がぼくに色々質問をし、ぼくがそれに適当に答えた。時々“敏腕”が話に割り込んできた。株成金は隣に座ったスーツを着た男と時々話すだけで、ぼくには全く目もくれずただブランデーを飲み、アイドルはその隣に座った若い女(これは池袋あたりの飲み屋で働いていそうだ)とはしゃいでいた。豊田瀬梨香は隣の“敏腕”と話をしていた(ほとんど“敏腕”しか喋っていないようだったが)。目の前のスプモーニは(たぶんスプモーニだったんだと思う)あまり減ることなくすっかり薄くなっていた。ぼくはそんなまわりの様子を眺めながら、“銀座”の香水のにおいとそのつまらない質問に辟易しながら、何杯かジントニックを飲んでいた。
(何のために呼んだんだ)ぼくは心の中でそうつぶやいた。腹の底に少しずつ怒りがこみ上げてきていた。
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by ktaro1414 | 2008-04-01 15:16 | STORY