忘れた頃に、突然更新


by ktaro1414
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小説69

 それからさらに数週間が過ぎた金曜日の夜。ぼくはいつものようにバイトに入っていた。この日は、金曜日とはいえ普段にもまして客の出入りが激しく、夜の11時をまわった頃にはかなりくたくたになっていた(エントランスは見た目暇そうに見えるが、お客様が来るたびに階段の上り下りをしなければならず、意外とハードなのだ)。
 そんな客の出入りが少し落ち着いてきて、相方のタカシがタバコを吸いに行ってもいいかとぼくに訊き、ぼくが軽くうなずいてOKの意志を伝え、「サンキュ」といって彼が階段を下りて行ったちょうどその時、店の前に2台のタクシーが止まり、降りた客がこちらへと歩いてきた。もう既に1~2軒まわってきたらしいその一団は、なにやら大きな声で話しながらこちらへと近づいてきた。
「VIPルームに通してもらえる?」その中のひとりがぼくに向かって言った。それは語尾が上がり、一応疑問型の体をなしてはいたが、明らかにその可否を伺うといったものではなかった。
「あいにく、VIPルームはご予約制となっておりますので・・・」
ぼくがそう言うのを遮るようにうしろにいた若い男が叫んだ。
「いいから通せって言ってんだろ。こいつオレたちのこと知らないのかねぇ。」
どこかで見たことのあるような顔だったが、誰だったか思い出そうとすると似たような顔が10コぐらい頭に浮かんできて、ぼくは小さく首を振ってそれらを頭の中から払いのけた。取りあえずぼくは今のこの状況をヘッドセットのトランシーバーを通してフロアマネージャーの香月に伝えることにした。ぼくの報告を受けた香月は、何も言わずエントランスへ駆けつけてきた。後からタカシも階段を上がってきていた。
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by ktaro1414 | 2007-10-26 18:56 | STORY

小説68

 それから数日間があっという間に過ぎた。その間、キャンパスで鮎川優菜と会うこともなかった。ぼくは心の中でたぶん彼女にバッタリと会うことを期待し、そして弁解する機会を欲していたのだと思う。しかし、ぼくは彼女の彼氏ではないし、もちろん彼女がぼくの恋人であるわけはなく、言い訳をする必要もなければ、言い訳のしようもないことははっきりしていた。それでもぼくはその機会を待っていた。要するに、ぼくは彼女に会いたかったのだ(たとえそれがどんなに身勝手なことだとわかっていても)。ぼくは出来るだけ何も考えないようにし、バイト中は来るお客様のことだけを考え、講義中は作詞に集中し、出来るだけ一生懸命に食事を食べ、友人といるときはなるだけ楽しい話題を探して、風呂に入っているときは意味もなく数を数えたりした。それでも何かの拍子に鮎川優菜の顔が浮かぶと、あの日あそこに泊まったことを悔やんだり、あの日の二人に祝福なんか送るんじゃなかったなどと意味のないことを考えたりした。
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by ktaro1414 | 2007-10-22 18:15 | STORY

小説67

「逃げなくったっていいでしょ」そう言って早足でぼくの横に並んできた。
「逃げてなんかないよ。逃げる理由なんかないだろ」そう言いながらもぼくの足は無意識に速くなっていた。
「今から昼飯喰うんだ、学食で」
「大丈夫よ、一緒に食べようなんて言わないから」
胸がちくりと痛んだ。ぼくは頭のどこかでこれから一緒に学食で昼食を取り、その間ずーっとこの件について責められることをある意味期待していたのかもしれない。しかし、こんなぼくとはもう一緒に食事なんかしたくないという、彼女の意思表示だと思えた。
「怒ってるの?」ぼくは思わずそう口にしていた。
「怒ってる?私が?どうして?」そう言って彼女の足が止まった。「でも、怒られるかもしれないと思うようなことはやったって事ね」
ぼくは、何も言えなかった。でも、そんなことは関係ないというように彼女は続けた。
「それはそうよね。あんな昼下がりの時間に寝癖のついた頭で部屋から出てきて、女の人といちゃいちゃしてるくらいだから」
絶句した。彼女はぼくたちをちらっと見かけたのではなく、あの日のロビーでのやりとり、その一部始終を見ていたのだ。
「どうして・・・」
ぼくは言葉がつなげなかった。
「まあ、関係ないでしょうけど。あの日、私の従姉妹の結婚式だったの。あのホテルで」
それだけ言って、彼女は足早にぼくのもとから去っていった。
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by ktaro1414 | 2007-10-17 19:42 | STORY

小説66

 翌週の火曜日、午前中の講義が終わったぼくは、昼食を取ろうと学食に向かっていた。
「矢口君」そう声をかけられ、振り向くと鮎川優菜が小走りでこちらに向かってきていた。
(矢口君?)ぼくは何となく居心地の悪さを感じずにはいられなかった。
「お昼?」彼女は、ぼくの横に並びながらそう言った後、少し間をおいてぼくの顔をのぞき込むようにしてこう続けた。
「ねえ、キミこの間の土曜日アークヒルズのホテルに泊まってたでしょ?」
ぼくの思考回路が一旦急停止し、それからものすごいスピードで回転し始めた。
「どうして?」
どう答えていいかわからず、ぼくにはそう言うのが精一杯だった。どうして彼女がそのことを知っているのか理由がわからなかった。
「あんな高級なところによく泊まったり出来るわね」
笑顔でそう言う彼女の目は笑ってなく、ぼくは焦っている自分をこのときはっきりと自覚できた。
「そんなに高級なのかな、あのホテル」
ぼくはそう言って歩き始めた。顔を見られるのが怖かった。
「あの女の人が払ったんでしょ。大人だし、お金持ちそうだったし」
見られたのだ。その時やっとぼくの頭の中で整理ができた。いや、たぶん最初からそうだろうと思いながら、それを認めるのが怖かったのだ。
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by ktaro1414 | 2007-10-12 12:28 | STORY

小説65

「この姿だから帰りますよ」そう言ったぼくの頭をのぞき込むように見た彼女は手に持っていたバッグを腕にかけ、少し背伸びをするようにしてぼくの後頭部に両腕を回して寝癖を直す仕草をした。見る角度によっては、まるで白昼のホテルのロビーでキスをしているように見えたかもしれない。ぼくは慌てて彼女の腕をとった。
「やめてくださいよ、人が見てるかもしれないじゃないですか」
そう言うぼくの顔を笑顔でみつめながら、彼女はそのしぐさをやめようとはしなかった。
「意外とこういうところでは、人は他人のことなんか見てないのよ」そう言いながらくすっと笑った。
「じゃあ、そこのラウンジでコーヒーだけ飲んで行こ」そう言って、いつものように一人で歩き出していた。そして、ぼくも仕方なくいつものように後を追った。
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by ktaro1414 | 2007-10-05 12:40