忘れた頃に、突然更新


by ktaro1414
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小説57

「どうしたんですか?」
少し驚いたぼくに、彼女の方が大げさに驚いてみせて言った。
「それはこっちの台詞でしょう。何度来ても店にはいないし、電話は留守電になってるし、どうしようもなくて店の人に訊いたら2ヵ月休んでるって言うじゃない。2ヵ月っていったらそろそろかなと思って来てみたらあなたのバイクが止めてあったってわけ。どうして私服なの?」そこまで一気に話した後、彼女が訊いてきた。
「バイトは明日からなんですよ。今日は挨拶に来ただけ。」そう言ってぼくはヘルメットをかぶろうとした。
「2ヵ月もどこで何してたのよ?まあいいわ。ご飯食べに行きましょ。詳しい話はそのときに訊くわ。」
そういって彼女は大通りへと歩き出した。たぶんタクシーを拾うつもりだろう。相変わらず強引だ。
「ダメですよ。ぼくはバイクなんだから。」
そういうぼくを見ながら彼女は言った。まるで手が焼けるこどもを見るように。
「置いていけばいいでしょ、いつものように。」
ふうっとぼくは息を吐いてヘルメットをバイクにつけ、彼女の後に続いた。
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by ktaro1414 | 2007-06-29 12:40 | STORY

小説56

 鮎川優奈とは、夏休みに入る最後の日、唐沢達と飲みに行き、その後ぼくの部屋に泊まった翌日、新井薬師前駅まで送って別れて以来連絡を取っていない。もちろん、ダム工事のバイト中でも連絡するぐらいの時間はあったけれど、長距離電話でわざわざ連絡するまでの用事はなかったからだ。電話をかけようか迷ったけれど、どうせ明後日には後期が始まるし、学校に行けば会えるだろうと思いとりあえず電話を入れるのはよすことにした。
 翌日は朝から快晴で(起きたのは昼前だけれど)、たまった洗濯物を一気に洗い上げ、部屋の掃除をした。それだけであっという間に夕方になってしまい、ぼくはバイクでバイト先へと向かった。バイト自体は明後日からなのだが、とりあえず帰ってきた報告をしておこうと思ったのだ。
 マネージャーに明後日から出勤できる旨を伝え、明日の土曜日から出てこいという返事をもらい、それを了承したぼくはエントランスへと続く階段を駆け上がった。エントランスでまだあまり客のこない時間帯を持て余しているタカシに軽く挨拶を交わしてバイクに近づいていくと、ボクのバイクの横に女が立っていた。豊田瀬梨香だった。
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by ktaro1414 | 2007-06-28 19:19 | STORY

小説55

 新宿駅の西口で高速バスを降り、西武新宿線に乗り換え、ようやくぼくのアパートに着いたときには、もうすっかり日が暮れてしまっていた。ドアを開け入った部屋の中は、60日分の咽せるような真夏の空気が充満していた。ぼくは、部屋と台所の窓を開け、荷物を下ろし、洗面所で顔を洗った。そこには、昨日までの工事現場の泥が染みついたように真っ黒になったぼくの顔があった。とりあえず、近くのコンビニで買ってきた缶ビールを空け一息に半分ぐらいを流し込み、赤くランプが点滅している留守番電話のボタンを押した。「26件です。」と、聞き慣れた女の乾いた声がした後に、録音テープが回り出した。夏休みに帰ってこない息子に愚痴をこぼす母親の声、小学生用の教材がいかにすばらしいかを簡潔に話す男のセールストーク、何も言わずに切れる受話器の音、それらが淡々と再生されていった。テープが終わりに近づいた時、明るい女の子の声が流れてきた。鮎川だった。
「ピーッ。優菜です。戻ってきたら連絡ください。ピーッ」
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by ktaro1414 | 2007-06-25 12:29 | STORY

小説54

 何とか無事に彼女をぼくの部屋まで運び込み、ベッドに横にさせたときには時計は12時をまわっていた。ぼくは冷蔵庫からハイネケンとソーセージを取り出して、ソファに腰を下ろした。何もかもあの時のままの様な気がした。ベッドの方に目をやると、彼女の寝顔が見えた。少しだけ粗い寝息が聞こえた。あの時は寝てなかったんだよな、そんなことを思いながらぼくはハイネケンを飲み、ソーセージを囓った。そして、顔を洗い歯を磨いて、シャワーを浴びようか少し迷ってやめた。ぼくは押入からタオルケットを取り出し、もう一度ベッドの鮎川の様子を確認してソファに横になった。
 夜中に突然目が覚めた。ぼくの胸の当たりに鮎川の顔があった。いつの間にかソファに横になっているぼくの横に入ってきたようだ。ソファはたいした大きさはないので、ひどくくっついた状態で彼女は寝ていた。彼女の寝息の暖かさがTシャツを通してぼくの胸に伝わってきた。少しだけ開けた窓からは全く風は入ってこず、ぼくの体にはじっとりと汗がからみついていた。ぼくは彼女を起こさないようにゆっくりとソファから抜け出し、火照った体を冷やすように冷たいシャワーを浴びた。
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by ktaro1414 | 2007-06-20 18:05

小説53

 結局バーを出たのは午後11時過ぎになった。当然電車はまだ動いている時間だが、ぼくはタクシーを探していた。鮎川が完全に酔ってしまい、とてもひとりで歩ける状態ではなくなってしまったからだ。(これじゃ、この間と同じ事の繰り返しじゃないか)ぼくは心の中でつぶやいた。ようやく捕まえたタクシーに何とか彼女を乗せ、あからさまに嫌な顔をする運転手に新井薬師の住所を告げた。「吐かないでくださいよ。」そう嫌みを言いながら車を走らせる運転手をぼくは無視した。鮎川は少しだけ顔をゆがめ、頭をぼくの肩に預けていた。
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by ktaro1414 | 2007-06-14 12:22 | STORY

小説52

 3時間程そうして過ごした後、ぼくらは店を出た。結局ぼくは生ビールを7杯飲み、表に出たときには少しだけ足下がふらついていた。しかし鮎川はもう1軒行こうと言ってきかず、唐沢たちは予想通りふたりだけで次の店に行くというので、仕方なくぼくは以前2~3度行ったことのあるバーに鮎川を連れて入った。カウンター席に座ったぼくらは(ぼくは何故かバーに入ると空いていない時を除いて必ずカウンター席に座る)、ぼくがハーパーのハーフロックを、彼女はスプモーニを注文した。しばらくの間、彼女はぼくがアルバイトで長い間東京から離れることについて、ぼくにその理由や必然性について問いただしていた(それは殆ど言いがかりといってもいい様な内容だった)。その度に、もう何度言ったかわからない弁解、いやその正当性について繰り返さなければならなかった。
「来年には就職活動もしなくちゃいけないし、そうなったらバイトも殆ど出来なくなるし、就活にも結構金がかかるだろ。その時のためにある程度まとまった金を作っとかないといけないんだ。」
「就職活動のお金なんて親が払ってくれるでしょ。」
「そうはいかないんだ。うちはそんなに余裕無いから。」
「ふーん、でも・・・。」
それきり彼女は黙り込んでしまった。ぼくは、ハーパーのハーフロックのお代わりを注文し、腕時計を見た。午後10時を少しまわったところで、まだ電車の心配はしなくて良い時間だった。
「時間なんか気にしなくて良いの。」そう言ってスプモーニを飲み干す鮎川にぼくは少し飲みすぎだと注意した。
「そういうところだけ優しいふりしてさ。すみません、私もお代わり。」
完全に絡み酒だ。こうなったらしばらく放っておくしかない。
「何か言いなさいよ。」
ぼくは黙っていた。何か言うと必ずそのことに対して突っ込んでくるのは間違いないから。彼女もそれで諦めたのか、それ以上は何も言わなかった。沈黙が続いた。ぼくは黙々と琥珀色の液体を喉に流し込んでいた。彼女はあまり飲んでいないらしく、新しく来たグラスは殆ど減っていなかった。そろそろ酔いが限界に来たかな、そう思ったとき彼女が不意に口を開いた。
「そんなにかまってくれなかったら、どうなっても知らないよ。私も。」
突然そう言ってぼくの顔に自分の顔を近づけてきた。その瞬間、まるで胸が締め付けられるようだった。ぼくは鮎川優菜に惚れている、そう間違いなく実感した。そして、それは許されないことだと再確認した瞬間でもあった。ぼくは女の子に恋をしてはいけないんだ、そう強く心で繰り返した。
「何も言ってくれないの?」
「“私も”って、どういう意味?」
彼女はぼくの目から視線をはずさなかった。少しだけ潤んだように見えるその瞳はとても魅力的で、思わず抱きしめてしまいたくなる衝動を、ぼくはかろうじて抑えた。
「もういい。」
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by ktaro1414 | 2007-06-06 12:17