忘れた頃に、突然更新


by ktaro1414
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<   2007年 05月 ( 4 )   > この月の画像一覧

小説51

 それからの鮎川は、それまでとはうって変わって饒舌になった。ぼくたちは、他愛のない会話を笑いながら交わし、ぼくは生ビールのジョッキを4杯、彼女はチューライムを2杯飲んだ。そんなとき、突然広石さんがぼくに話しかけてきた。
「慧太郎くんは夏休みどうするの?」
「夏休み?」
「そう、夏休み。唐沢君は九州に帰って、ナンパに明け暮れるんだって。」そう言いながら唐沢を睨みつけた。
「そんなこと言ってないだろ。」唐沢の顔が真っ赤になっていた。
「オレは今年もバイトだよ。」
ぼくは、そう答えながら、唐沢の様子を見て思わず笑ってしまった。
「バイトっていつもじゃない。」
そんなぼくに向かって、鮎川がまじめな顔のまま口を挟んだ。
「いつものじゃなくて、ダム造りだよ。今年は岐阜に行くんだ。」
「岐阜?」彼女たちは声を合わせるように叫んでいた。「岐阜ってどこだっけ?」
「オマエら岐阜もわかんないのかよ。」そう言って唐沢が大まかな場所などを彼女たちに(というか、ほとんど広石さんにだが)説明し始めた。
「オマエらって言ったよ、この人。」
鮎川が責めるようにぼくに小声でささやいた。
「福岡じゃ普通にオマエって言うんだよ。悪気はないんだ。」
「ケータローも言うの?オマエって。」
「言うことはあるよ。こっちに出てきてからはあまり使わないけど。」
「ふーん。でもケータローにならオマエって言われてもいいかも。“オマエら”はやだけど。」
そう言って笑う鮎川を見ていると、さっきまでの会話が頭の中で何回も繰り返され、どんどん自己嫌悪に落ちていきそうだった。
「どうしたの?」
覗き込む彼女の少し心配したような顔が、そんなぼくの胸を刺した。
「いや、何でもないよ。」
「そう?だったらいいんだけど。ねえ、岐阜っていつから行くの?」
「明後日には発つよ。高速バスで行って、1日あけて、次の日からドカタ。」
「そっかぁ。いつ帰ってくるの?」
ぼくはしばらく考えた。
「講義が始まるのが21日の月曜だから、その前の週には帰ってこないとね。」
「21日って、9月の?そんなに行ったっきりなの?」
「そうだね。こっちにいてもすること無いし。金いるし。」
「だって、バイトしてるんでしょ、今も。そっちはどうするのよ。」
「うん、辞めるって言ったら、その期間休んで良いって。夏休みの間は、結構人手足りるんだよ。」
「そうなんだ。」鮎川はジョッキのチューライムを飲み干した。「じゃあ、今夜はとことん飲もう。」
そう言ってぼくのジョッキを無理やり空けさせて、5杯目の生ビールと3杯目のチューライムを注文した。
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by ktaro1414 | 2007-05-29 18:15 | STORY

小説50

 ぼくたちは、高田馬場へと出た。いつもの白木屋に入り、唐沢の仕切りで乾杯をさせられ、そしてあっという間に唐沢は広石さんとふたりきりの世界へと入っていった。
「あのふたり、つきあってんのかな?」ぼくは、何となくつぶやくように言った。学食での鮎川の様子が気になって何となく話しかけづらかったからだ。
「どうだろう。別に美幸も嫌いってわけじゃなさそうだけど、つきあってるって感じじゃないんじゃないかな。」
「だよな。でも、彼女、かなり雰囲気変わったよなぁ。髪のせいだろうけど。」
「うん。なんだか、ますます女の子らしくなったよね。」
「以前は男の子みたいな感じだった。」
「そんなことないわよ。」少しだけ責めるような口調になっていて、ぼくはちょっと驚いた。「見た目だけで判断するのよね、男って。」
「いや、そんなこと言ってないよ。ただ見た目がボーイッシュだったって言う意味で・・・」そう弁解するように言った後、なぜぼくが弁解しなければいけないのかと少しだけムッとした。そして、鮎川もその後、口をつぐんでしまった。再び、気まずい空気が流れた。
 唐沢は相変わらず広石さんの方に向かってやたらと何かを話しており、広石さんはというと、これが意外にも嫌そうなそぶりを見せることなく(どちらかといえば楽しそうに見えた)、唐沢の話に頷いたり、時に笑ったりしていた。ぼくには、そんな唐沢がやっぱり羨ましかった。
「ねえ、」そんなふたりを眺めているぼくの顔を、いつの間にか覗き込むようにして鮎川が見ていた。
「なに?」驚いたそぶりを見せぬようぼくは応えた。
「ねえ、彼女、出来たでしょ?」
「えっ?」今度は明らかに驚いてしまった。「出来てないよ。どうして?」思わず豊田瀬梨香の顔が浮かんだ。なんかこれと似たようで、全く逆のことがあったような気がして、思わず苦笑いしそうになった。
「んー、そうねぇ、何となくかな。女の直感ってやつ?こないだ会ったあの娘、彼女なんじゃないの?」
「ああ、あの娘かぁ。」ぼくは少しほっとしていた。「あの娘はそんなんじゃないよ。ただ一緒に飲んだだけだから。」
「そうなの。じゃあ他にいるんだ。」
「だから、彼女なんかいないって。なんかつっかかるよな、今日は。」
ホントにそう思っていた。
「ホントにいない?」彼女がぼくの目を鋭い視線で見つめていた。ぼくは少したじろいだが、きっぱりと言った。
「いないよ。」
心がちょっぴり痛んだ。
「そう、じゃあ信じてあげる。」
そう言って笑う彼女の顔を見て、ぼくはドキッとした。そしてさっきよりもう少し心が痛んだ。
「そんなことより、そっちの方こそ彼氏出来たんだろ?」
そう言ってしまった後、ぼくは自分の過ちに気付いた。早く話題を変えようと思ったのだが、これではますます深みにはまってしまいそうだ。鮎川はびっくりしたような、それでいてある程度予想していたような目でぼくを見ていた。ぼくはちらっとだけ彼女の方へ視線を向け、そしてすぐに手元のグラスへと戻した。奥の方では、やはり学生たちがコンパをしている様子で、一気のかけ声や歓声が上がっていた。
「彼は、・・・前川君は彼氏なんかじゃないよ。」しばらく間があって、鮎川が話し始めた。「3年になってからゼミが一緒なの。だから、たまに一緒にランチしたり、他のゼミの人たちと飲みに行ったりすることはあるけど、ステディな関係とか、そういうのじゃないの。前川君とは、ホントに何でもないの。」
「そうなんだ。」とだけぼくは言った。たぶんそれは嘘なんかじゃなく本当のことなんだろう。でも、それまでと比べて早口で否定する鮎川の様子を見て、ステディな関係ではないのだろうが、何でもない関係でもないのだろうということはぼくにもわかった。もちろん、そんなことは一言も口にはしなかったけれど。そういう意味では、先程のぼくの弁明の方が、はるかに嘘に近いものだとわかっていたから。
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by ktaro1414 | 2007-05-21 19:32 | STORY

小説49

 学食に入り、ぼくはふたり分のコーヒーを買って先にテーブルについた鮎川の目の前にそのひとつを置いた。
「ありがとう。」
それだけ言って、彼女は外をぼんやりと見ていた。ぼくは、彼女が何か言いたそうにしているような気がしたが、気づかないふりをした。ぼくは居心地の悪さを感じ、こんな事ならひとりで時間をつぶしていた方がよっぽど良かったな、などと思ったりしていた。
「ねえ、」そんなとき、突然彼女が口を開いた。「最近、私のこと避けてたでしょ、キミ。」顔は外の方をむいたままだ。
「そんなことないよ。どちらかというと、キミの方がぼくを避けてた様に思えるんだけど。というか、何か怒ってるような気がしてた。」
「なにか怒られるようなことをしたの?」
「してない、と思うけど。」
「ふーん。だったら私が怒る事なんてないんじゃない?」
ぼくはしばらく考えた。でも、そう感じたのは事実だ。
「でも、そんな気がしたんだ。ぼくは避けてなんかない。」
「ふーん。」それきり彼女も何も言わなかった。
 しばらくして唐沢が女の子を連れて現れた。以前、一緒に飲みに行った鮎川の友だちのボーイッシュ君だった。(広石という名前なのだがこのときは思い出せなかった。)彼女は、髪を伸ばしたらしく、もうボーイッシュな面影はなく、とてもかわいい女の子になっていた。
「なんだよ唐沢。」ぼくがひとりじゃないのを少し責めるように言うのとほぼ同時に、鮎川も口を開いていた。
「あれ、美幸なにしてんの?」(彼女は広石美幸という名前だったことをこのとき思い出した。)
「いや、飲み行くっていったらついてくるって言うからさ。」そう言う唐沢を制するように広石美幸が鮎川に向かって答えた。
「唐沢君が飲みに行くから来いって。」そう言いながら唐沢に怒ったような視線を送った。
「ま、そう言うこと。っていうよりオマエだって鮎川ちゃんと一緒じゃん。」
ぼくは「確かに」と心の中でつぶやきながら、言い返した。
「こっちは、たまたまさっき会って、学食で時間つぶすって言ったらつきあってくれたんだよ。」
唐沢は鮎川の方へ「ホントに?」といった視線を向けたが、鮎川は何も言わず小さく頷いた。
「ふーん、まあいいじゃん。せっかく4人揃ったんだからみんなで飲みに行こうぜ。ぱぁーっと、夏休み突入のお祝い。」
相変わらず唐沢の調子の良さには呆れてしまう。ぼくは、先程からの鮎川の感じでは彼女はついてこないだろうと予想し、さっきの様な気まずい雰囲気になるくらいならその方がいいと思ったし、たぶん何処かで前川が待っているだろうとも考えていた。しかし、意外にも彼女は、唐沢のその提案に乗ってきた。
「美幸も行くんでしょ?だったら、ぱぁーっと行きますか。」と唐沢の口調を真似して。
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by ktaro1414 | 2007-05-11 12:12 | STORY

小説48

 翌週の土曜日、ぼくは講義があったわけではないがキャンパスへと向かった。いよいよ、明日から夏休みが始まり、唐沢も福岡へと帰省するので、その前に飲みに行こうということになったからだ。唐沢の講義が終わるまで学食で時間をつぶそうと思い、キャンパス内をぼくが歩いていると、少し遠くを歩いている男女が目に入った。男の方がやたらと大きく目立っていたため思わず見てしまったのだが、それが鮎川と前川だと気付くのには少しばかり時間がかかってしまった。やはり、唐沢が言っていた鮎川の噂は本当だったようだ。ぼくは、気付かなかったことにしようと思い、ふたりから視線を外そうとしたまさにその時、一瞬早く鮎川がぼくの方を見てしまった。ぼくは仕方なく、軽く手を挙げ、ふたりとは逆の方向へと歩き出した。
「ちょっと待ってよ。」ちょっとして後から鮎川がぼくを呼び止めた。「逃げることないじゃない。」彼女はそう言いながらぼくの横に並んだ。
「人聞き悪いな。逃げてなんかないさ。」ぼくは前に顔を向けたまま言い返した。「それより、いいの?彼氏待たせても?」ぼくはわざと彼氏という言葉を使ったのだが、彼女はそれには特に反応を見せることはなく、「どこに行くの?」とだけ言った。
「唐沢と飲みに行く約束してるんだ。これから。」
「こんな早い時間から?」今度は少しだけぼくの方に顔を向け、顔にかかった髪をかきあげた。
「いや、もう少ししてから。あいつ今講義中だから。学食で時間つぶし。」
「じゃあ、私も時間つぶしにつき合ってあげる。」そう言いながらぼくの腕に手を回した。ぼくは前川がこちらを見ているんじゃないかと落ち着かなかったが、もちろん振り向いたりは出来なかった。
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by ktaro1414 | 2007-05-08 12:30 | STORY