忘れた頃に、突然更新


by ktaro1414
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小説47

 結局、ぼくたちはこのバーで3時間近くを費やし、当然のようにふたりとも飲み過ぎてしまって、そのままこのホテルに泊まることにした。
 この日の彼女は、普段と比べるととても激しかった。終わった時には、ぼくはもうふらふらで(もちろん酒のせいもあるけれど)、シャワーを浴びる気にもなれなかった。それは彼女も同じようで、半ば放心状態で、それでいてなかなか興奮は収まらず、寝付くこともなかった。
「ねえ、高校時代に何があったの?」
またその話かとぼくは思った。しかし、次の瞬間何故かこう口にしていた。
「彼女が死んだんだ。」
そして、その一言がぼくの頭のどこかにあるスウィッチを入れてしまったらしく、ゆっくりとぼくと智恵美の話を語り始めてしまい、一度話し始めるとどこまでも詳しく、全くよどむことなく、全てをぼくは話しきってしまった。そして、話し終えるとともに恐ろしいほどの睡魔がぼくを襲い、そのまま眠りについてしまった。
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by ktaro1414 | 2007-04-23 18:30 | STORY

小説46

 翌日の土曜日、ぼくはバイクで箱根まで走った。正月の箱根駅伝のルートに沿って。天気は快晴で、過ぎていく風が心地よかった。夕方にはそのまま有明まで行き、午後5時に店に入った。午後10時頃豊田瀬梨香が店に現れ、午前0時30分頃にぼくはバイトを終え、それに合わせて彼女も店を出た。ぼくたちは六本木まで行って食事をし、その後高輪のホテルのバーへと向かった。
 ぼくたちは、カウンター席の奥の方に並んで腰掛け、ぼくがスコッチのオン・ザ・ロックを、彼女はドライマティーニをオーダーした。最初のうちは、この日ぼくが箱根まで行ったツーリングの話や、彼女の友人がしつこい男につきまとわれている話など他愛ない話をしていたが、やがていつものように彼女がぼくのことを、とりわけぼくが東京に出てくる前の話を聞きたがった。ぼくは、前にも言ったが、最近では彼女から訊かれたことについて自分でも驚くほど素直に話して聞かせていたが、どうしても高校時代の話だけは避けていた。それは当然、そのころのことを話し出せば智絵美のことについて触れないわけにはいかなくなるからだ。しかし、この日の彼女はいつも以上にそのころの話を聞きたがっていた。
「どうして教えてくれないの?」と訊く彼女に
「そんなに話して聞かせるようなことがないんだ。そのころのぼくは特に目立たない普通の生徒だったし、あまり学校にも行ってなかったし・・・」ぼくは、やんわりとその話題から逃れようとした。
「学校に行ってないなんて、それだけで普通の生徒なんかじゃないじゃない。」彼女は、そう言いながら、飲み干したグラスをカウンターの中のバーテンにかざすようにしながら、同じものをオーダーした。「それに、今のキミを形作ったのはそのころのような気がして仕方がないんだなあ。」
 それはそう、その通りだ。間違いなく、あの当時のあの出来事によって -智恵美と出会い、つき合って、そしてひとりきりで旅立たせてしまった事によって- ぼくはそれまで以上に人とのつきあいを避け、深く関わり合うことの無いようにして暮らしてきたのだから。
「ほら、やっぱり何かあったんでしょ?その頃に。」彼女がぼくの顔を覗き込むようにして言った。ぼくは慌てて目を逸らした。
「まあいいわ。でも、いつか聞かせてね、そのころの話。」
ぼくは、ほっとして2杯目のオン・ザ・ロックを注文した。
 それから話題は、最近始まったTVドラマの話になり、一斉に発売されることになったザ・ビートルズのCDの話になって、それから来年には始まるぼくの就職活動の話になった。彼女はぼくに、どんな仕事に就いて、どんなことをやりたいのかと訊いてきたが、ぼくにそんな明確なビジョンがあるはずもなく、まだ何も分からないとだけ答えた。
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by ktaro1414 | 2007-04-11 12:12 | STORY

小説45

 季節は完全に夏になっていた。女の子たちの肌の露出はほぼ限界と思われるところまで達しており、激しい日射しはTシャツから出たぼくの腕をジリジリと焼いていた。夏休みまでは、まだ1週間ほどあるのだが、キャンパスを歩く学生たちの姿はめっきりと少なくなっていた。
 あの日以来、ぼくと豊田瀬梨香は、たまに会って食事をして酒を飲み、それから彼女の部屋やホテルに泊まってセックスをした。彼女がぼくに対して恋愛感情なるものを持っているのかそうでないのか、ぼくにはわからなかった。いや、わからないというよりも考えないようにしていたという方が正しいかもしれない。ぼくにはやはり人を愛す資格など無いと思っていたし、ぼくは恋愛をしたり恋人を作ったりしてはいけない人間だと信じていた。智絵美をひとりぼっちにしたままでは。
 それでもぼくは、豊田瀬梨香と一緒にいるとなぜか落ち着くことが出来て、セックスをすることがとても素敵なことの様に思えてきていた。彼女は食事の時やベッドの中で、ぼくについての色々な事柄を訊きたがったし、ぼくはそれについて意外なほど素直に話して聞かせた。それは、ぼく自身にとって画期的なことだった。ただ、そんなときでもぼくは時々、鮎川優菜のことを考えることがあった。たまにキャンパスで彼女を見かけると声を掛けようかどうか迷い、迷っている間に姿を見失うということも度々だった。
 ぼくが昼食を摂るために、就職活動のためにリクルートスーツに身を固めた4年生たちの間をぬって学食へと向かっているとき、唐沢が声を掛けてきた。ぼくたちは一緒に昼飯を食べることにし、唐沢がオムライスを、ぼくはカツ丼を選んでテーブルに着いた。ここのカツはやはりとてつもなく固く、いつかの唐沢のようにぼくが悪戦苦闘していると、唐沢が声を少し小さくして「おまえ知ってるか?」と顔を近づけてきた。
「知ってるかって、何を?」
「優奈ちゃんだよ。彼氏が出来たらしいって。」
ぼくは、なんのリアクションも出来ないまま、カツと戦い続けていた。動揺を唐沢に気付かれたくなかった。
「なんだ、驚かないんだな。知ってたのか?」
「いや、知らなかったよ。」ぼくは、戦いを一時休戦して応えた。
「ふーん。相手、気にならないか?」
「誰なんだよ。」
「ラグビー部の前川らしいぜ。」
「前川って、あの前川か?」ぼくは少し大げさに驚いてみせた。その方が自然に振る舞えるような気がしていた。
「その前川だよ。」
前川というのは、我が大学のラグビー部員で、1年生の頃からほぼレギュラーといってよく、3年生の今は紛れもない主力選手と言っていい。もちろん、そういう男はルックス的にも恵まれており(天は二物を・・・というあれは、間違いなく間違いだと思う)、学内のみならず学外でも(あるいはラグビー好きな全国の)女性たちに人気のある男だ。つまりは、ぼくなんかとはほぼ反対側の世界に生きてきて、これからもその世界で生きていくことが約束されている人間と言っていい(そして、ぼくもこっちの世界で生き続ける義務を負わされている)。
「それが本当ならすごいな。」ぼくは心からそう思った。
「だろ。こないだ国立にうちの試合見に行ってさあ、あ、ちなみにヒロミちゃんと行ったんだけど、憶えてるだろ、グランドホステスの。まあそれはいいんだけど、男のオレから見てもかっこよかったもんな、あいつ。」その時の情景を思い出すように、天井を見上げながら唐沢が言った。
「そうだな。」それだけ言ってぼくは再び戦いを開始した。
「まあ、こう言っちゃなんだけど、オマエに勝ち目はないな。」
「勝負を挑むつもりなんてないよ。第一、オレには関係ないから。」
「だったらいいんだけどな。」
唐沢もそれ以上そのことについては話さなかった。
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by ktaro1414 | 2007-04-03 12:10 | STORY