忘れた頃に、突然更新


by ktaro1414
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小説41

 結局この日は最後まで忙しくなることはなく、ぼくは定時の午前0時に上がることが出来た。ぼくがフロアの端を横切ってスタッフルームに入っていくのを見ていたのだろう、着替えを終えて出てきたときにはカウンター席に彼女の姿はなかった。階段を上り、遅番のタカシに軽く挨拶をして、ぼくはバイクを停めてある路地へと入った。てっきり彼女がそこで待っていると思っていたのだが、そこには誰の姿もなかった。ぼくは一度通りまで出て辺りを見回してみたが、やはり彼女の姿はなかった。なんだ帰ったのか、そう心の中でつぶやき、そして少し落胆している自分に気付いて驚いていた。
がっかりしてる?うそだろ?
 ぼくはゆっくりと路地へと戻った。すると、ぼくのバイクに腰掛けるようにした人影があった。彼女だ。
「どこに行ってたの?バイク置いて帰ったのかと思ったわ。」
「そっちこそ、どこに行ってたんですか?ぼくが出てくるときには、もうカウンターにはいなかった。」ぼくは少しほっとしながら言った。
「お店を出る前に、お手洗いにね。」そう言った後、彼女がはしゃいだ様な声になった。「ひょっとして、私のことを探しに行ってた?」
「ち、違いますよ。」たぶん、ぼくの顔は赤くなっていたと思う。でも、幸い暗がりのため、彼女はそれには気付いていないだろう。
「そっかぁ、探しに行ってくれてたんだぁ。何だか嬉しいな。」
「だから違いますって。まあ、喜んでくれるんならそういうことにしといてもいいですけど。」
「うん。そう思うことにするわ。で、何食べに行く?嬉しいから奢っちゃう。」暗がりでも、ほんとに彼女が嬉しそうにしているのがわかった。
「いいですよ、こないだもごちそうになっちゃったし。」
「いいの、いいの。何がいい?」
ぼくは、少しだけ考えてから「ラーメン」と応えた。
「ラーメン?そんなものでいいの?」
「うん。ラーメン大好きなんですよ。」
「ラーメンかぁ。」そう言いながら彼女はタクシーを拾い、運転手に赤坂にある高級ホテルの名前を告げた。まあ高級ホテルにラーメン屋があるわけはなく、その近くにある店にでも行くのだろうと思い、ぼくは何も言わなかった。しかし、タクシーはそのままホテルのエントランスにつけられ、ベルボーイがおもむろにタクシーのドアを押さえて僕らを迎え、彼女はそのままホテルの中へと入っていった。ぼくは慌てて彼女を追いかけた。
「どこに行くつもりなんですか?」
「地下のレストランよ。」彼女は涼しい顔をして振り返ることなく応えた。
「こんなホテルにラーメン屋があるわけないでしょう。それに、こんな時間じゃどこも開いてませんよ。」ぼくは彼女の腕を掴むようにしながらそう言ったが、逆に彼女に引っ張られる様な形になった。
「だれもラーメン屋だなんて言ってないでしょう。ここの中華は美味しいのよ。それに遅くまでやってるの。」
(中華レストランか)やられたなと思った。どうやっても彼女の方が1枚も2枚も上手のようだ。これは明らかに年の差だけの問題ではないと思う。
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by ktaro1414 | 2007-02-27 12:43 | STORY

小説40

 唐沢と別れたぼくは、一度部屋に戻り洗濯を済ませた。天気予報を確認したが、今夜は雨の心配はいらなそうなので、全て窓の外に干すことにした。夕方からはバイトで、今日は早番のため午後五時には店に入っていなければならない。
 バイクでぼくの学校を右手に見ながら新目白通りを走り、有明に向かった。体に当たる風が心地よく、もうそこまで夏が来ていることを感じさせた。
 店に入り、フロアやトイレの掃除を済ませ、店内に巡らされている真鍮の手すりを磨き上げると、すぐにオープンの午後七時になってしまう。ぼくがヘッドセットをはめて階段を上りエントランスの定位置にスタンバイしたときには、オープン2分前になっていた。といっても、オープン時間ちょうどに来るような客はほとんどいない。しばらくの間は、ただボーと外に向かって立って入るだけの時間が続く。ぼくがスタンバイして30分位経った頃ようやく最初の客が来店し、ぼくの今日の相棒であるタカシが(ほとんど話をしたこともなく、どこで何をしている奴なのか全く知らない)店内へと案内していった。それから2時間ほどの間に8組の客が来店し、そのたびにぼくとタカシが交互にフロアへと案内した。平日とはいえやけに今日は暇だ。8組の客である男女のふたり組をタカシが案内して階段を下りていくのを眺めながら、ぼくは腕時計に目をやった。午後10時を少しまわったところだった。ぼくが時計から視線を上げるのとほぼ同じくして、目の前にひとりの女が立っていた。豊田瀬梨香だった。
「お久しぶり。」そう言う彼女の顔を見た途端ぼくの鼓動が早くなったような気がした。
「お久しぶりですね。いらっしゃいませ。」ぼくは努めて冷静に言った。「今日はお一人ですか?」
「そう。お相手してくださる?」
「仕事中ですから。」
「あら、じゃあ仕事が終わった後ならOKっていうことね。」彼女はいたずらっぽい笑顔を浮かべてそう言った。ぼくは、心を見透かされたような気がして、それを覚られまいと彼女の方から顔を背けた。
「まあ、それは構いませんけど、何時に終わるかわかりませんから。」
「いいわ。中でゆっくりカクテルでも飲んで待ってるから。」そして、じゃあ案内してといいながら先に階段を降り始めた。ぼくは慌てて彼女の後を追いながらレシーバーでフロアに伝えた。「女性お一人様ご案内します。」
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by ktaro1414 | 2007-02-16 18:20 | STORY

小説39

 智絵美が死んでからのぼくは、全くバイクには乗らなくなった。もちろん事故のためにぼくのバイクが廃車となったこともあるが、その気になれば知人に借りて乗る事も出来たし、選り好みさえしなければ安い中古を買うことも出来た。しかし、それもしなかった。別に事故のためにバイクに乗ることが怖くなったわけではなく、何となくそうすることが智絵美の供養になるような気がしていたのだと思う。そして、智絵美を守ってやれなかった、ずっと一緒にいるという約束を守れなかった、そんな自分に対するペナルティの意味もあったのかもしれない。
 高校を卒業して、逃げるように東京の大学に進んだぼくは、特に親しい友人も作らず、部活やサークルにも入らず、ひたすらバイトに明け暮れた。ただ、たまたま高校時代の先輩が同じ大学におり、キャンパスでばったり会った時にバンドに誘ってくれたため、何となくそのバンドに加わり時々練習には参加した。
 1年の夏休み、特にやることもなかったぼくは、知人の紹介で長野に行った。長野といっても別に旅行ではなく、長期間ダム建設現場でのバイトをするためだった。バイトの内容は肉体労働で(いわゆる土方である)、ひどくきついものだったが、食事は3食付いていてバイト代も悪くなかった。そして何より、色々考える必要がないのがその時のぼくにはうってつけだった。回りに何もない環境で朝から晩まで働いてくたくたになり、夕食を食べて風呂に入ったら、後は死んだように眠るだけだったからだ。そのようにして2ヶ月近く働き東京に戻ったぼくには、顔と肩から先だけが真っ黒で少しだけ厚くなった体と50万を超える現金が残った。
 後期が始まってしばらくしたある日、講義を終えて駅に向かう途中、バイク屋の前を通りかかった時にふと1台の中古バイクが目にとまった。それは、ぼくが高校時代に乗っていた、そしてあの事故によって廃車となったカワサキのFXというバイクだった。思わずぼくはそのバイクに近寄り、しばらくの間懐かしいその姿を眺めていた。中古にしては非常に程度が良く、カラーリングも若干扱った後があるもののほとんどぼくが乗っていたバイクと同じで、テールカウルを古いカワサキのタイプに変えているところまでそっくりだった。ぼくがあまりにも熱心に見ていたせいか、店の中からおやじが出てきて、このバイクがワンオーナーで大事に乗られていたものだと教えてくれた。さらに、今表示している金額から5万円引いてくれるとも言った。ぼくには夏のバイトで稼いだお金がほとんどそのまま残っており、その額はこのバイクを購入するのに充分だった。ぼくはすぐに銀行へと向かい、その場でこのバイクを買った。それ以来ぼくは毎日のようにバイクに乗るようになった。学校へ行くにも、バイトに行くにもバイクで行ったし、時には雨の日だってバイクに乗った。学校もバイトも無い時には箱根や日光などにツーリングにも出かけた。でも、タンデムシートには誰も乗せなかった。タンデムシートはずっと智絵美のものだった。
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by ktaro1414 | 2007-02-05 18:18 | STORY