忘れた頃に、突然更新


by ktaro1414
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<   2007年 01月 ( 5 )   > この月の画像一覧

小説38

 ようやくカツとの闘いを終えて、煙草を吹かしながら唐沢が妙に真顔で言った。
「オマエさあ、ホモじゃないよな?」
「なん言いだすとや、オマエ。」突然の変な質問に思わず方言でぼくは聞き返した。「違うに決まっとろうが。」
「だってさ、オマエそんなに不細工なわけじゃないし、女の子にも全くモテないってわけでもないだろ。なのに全然興味なさそうじゃない。だから、ひょっとしてって思ってさ。」
「別に興味がないわけじゃないよ。」ぼくは取り直して応えた。「ただ、今は・・・」
「ただ、今はバイクが恋人だ、何てくさいこと言うなよ。絶対に他人を乗せないんだもんな、オマエは。そんなにかわいいか?バイク。」
「そんなんじゃないよ、バイクは好きだけど。」そう言いながら、ぼくは智絵美のことを思い出していた。
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by ktaro1414 | 2007-01-25 18:15 | STORY

小説37

 あの日以来、ぼくはキャンパス内でこそこそとまるでいたずらをした子供のように逃げ隠れする必要がなくなった。なぜなら、鮎川優菜と顔を合わせても、彼女の方から声を掛けてくることが無くなったからだ。彼女は、ぼくに対してかなり怒っているみたいだった。ぼくが、嶋村美貴と一緒にいたことが気に入らなかったのかもしれないが、それ自体が悪いことだとはぼくには思えなかったし、第一弁明をする機会さえぼくには与えられなかった(もちろん、弁明するかどうかは別の問題だが)。だからといって、ぼくがそのことについて色々と考えているわけではなく、ぼくは学校と、バイトと、洗濯と、そして時々のツーリングという、いつも通りの生活を相変わらず送っていた。
 キャンパスには、少しずつスーツ姿の学生が増え始めていた。ぼくが目にする3度目の就職シーズンが始まろうとしていた。初めてこの光景を目にしたとき、一種の嫌悪感と僅かな侮蔑をこめて彼らを見ていたぼくだが、3度目の今年はかなり身近な感覚にならざるを得ない。来年は、ぼく自身があのようにして就職活動をしなければならないのだ。そう思いながら、スーツを着てキャンパス内を歩いている自分を想像してみたけれど、うまくイメージが湧いてこなかった。
 3限目を終えて学食で昼食を摂ろうと歩いているところへ、唐沢が声を掛けてきた。唐沢と会うのは、あの高円寺の夜以来だった。
「よう、メシか?一緒に食おうぜ。」
ぼくたちは、第4食堂に入り、ぼくはBランチ430円を、唐沢はカツ丼520円を持って窓側の席に着いた。
「あれから、美貴ちゃんとはどうなった?」しばらくして、唐沢が訊いてきた。
「どうなった?って、どうもなってないよ。」
「ふたりで、何処か行ったんだろ?」
「どうして?」
「聞いたんだよ。ヒロミちゃんから。」
「何て聞いたんだよ。」ぼくは、無関心を装って聞き返した。
「オマエのこといい人だって言ってたらしいぜ。飲みに行ったのか?」
「ラーメン食っただけだよ。腹減ってたから。そのあと、近くに知ってる店があったんでちょっとだけ寄って。で、すぐ帰ったよ。」
「2軒も行ってりゃ、すぐじゃねーだろ。」唐沢は、固そうなカツと悪戦苦闘しながらそう言った。「で、その後はデートとかしたのか?」
「してないよ。連絡先知らないし。」ぼくは、本当に彼女の連絡先を知らなかった。そのことで、ぼくは少しだけ後悔していたし、ひょっとして唐沢が知っているんじゃないかとほんの少しだけ期待もしていた。
「はぁ?」唐沢は呆れたようにぼくの顔を見ながら、首を振った。「マジで?信じらんないねぇ、おまえは。気に入らなかったの、美貴ちゃんのこと。」
「別にそんなんじゃないよ。ただ、何となく聞きそびれたんだよ。」
唐沢は、「へぇ~」と言ったきりで、再び頑強なカツと闘い始めた。その唐沢の様子はほんの少しだけぼくを落胆させた。ほんの少しだけ。
「オマエの方はどうなんだよ。そのヒロミちゃんとはうまくいってるの?」
「ぼちぼちでんな。」唐沢は微妙な笑みを浮かべて答えた。「彼女たち学生みたいなもんじゃない。だから、あんまり時間が無くてさ。時々、向こうから電話はもらえるんだけど、こっちからはかけられねーの。寮なんだよ、彼女たち。」唐沢は、彼女たちがまだ学生だと信じているようだ。
「かけられないって、番号は知ってんの?」ぼくは少しドキドキしながら訊いた。
唐沢は何も言わず首を振った。ぼくはもう少しだけ落胆した。
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by ktaro1414 | 2007-01-19 08:38 | STORY

小説36

 その夜ぼくは夢を見た。月明かりでほの暗い平原に、白いワンピースを着た女の子が裸足のまま背中を向けて立っていた。しばらくその様子眺めていると、静かに女の子が振り返った。智絵美だ。ぼくが近づこうとすると、まるで近づいては駄目だという風に彼女は首を振り、ゆっくりと歩き出した。いや、正確には足は動いておらず、滑るようにぼくから離れていった。ぼくは「智絵美」と叫ぼうとするが声は出ず、足も全く動かなかった。そして、ぼくからだいぶ離れたところで彼女は立ち止まり振り向いた。
 夢はそこで終わった。ぼくのシャツは汗で肌に張り付いていた。最後に彼女が振り返った顔、あれは確かに鮎川優菜のものだった。ぼくは、この夢の意味を考えた。もちろん夢の意味など考えて解るはずも無い。しばらく考えただけで、ぼくは台所に行き冷蔵庫から水を取り出して一気に飲んだ。そして、Tシャツを着替えて再びベッドに潜り込んだ。
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by ktaro1414 | 2007-01-15 12:27 | STORY

小説35

「何にやけてんの?」電車が中野のホームを滑り出た時、誰かがぼくの腰の当たりをつついた。振り向いたぼくの目の前に立っていたのは鮎川優菜だった。
「しばらく見ないと思ったら、かわいい女の子とデレデレしちゃってさ。だいたい何やってんのよ?学校行ってる?」
「別にデレデレなんかしてないよ。そっちこそ、こんなところで何してんの?」
「国立まで行った帰り。叔母が住んでるの。」
「そうなんだ。学校は行ってるよ。ただ、しばらく休んでたけど。ちょっと実家に帰ってたんだ。」
「実家って、博多?」
「福岡。ばあさんが亡くなってね。それで2週間ばかり。」
「そうなの。大変だったね。」
「まあね。」
「で、かわいい女の子と何してたの?高円寺なんかで。」
「唐沢たちと飲んでたんだ。」
「唐沢君?じゃあ合コンだあ。良いわねえ、のんきで。人が心配してたのも知らないで。」
「何を心配してたんだよ?」
「キミのことに決まってるでしょ。もう。」そう言って、彼女はぼくに背を向け窓から流れていく夜の街の様子をしばらく眺めていた。
「それにしても、こんな時間からどこに行くの?」思い出したように彼女が訊いた。
「そっちこそ。どこに行くんだよ?」
「私はお家に帰るだけよ。恵比寿だもん、私のお家。」
「オレも帰るだけだよ。」
「どこに?」
「部屋に決まってるだろ。」ぼくは、少しだけムッとして答えた。
「高円寺からでしょ?なんで電車に乗ってるの?それに中野で降りた方が早いでしょ、キミの部屋までだったら。」
(あっ。)ぼくは思わず絶句した。行きは唐沢に急かされたためタクシーを使ったが、確かにぼくの部屋までは歩いても30分かからない程度の距離である。電車を使うとしても中野で降りた方が近い。嶋村美貴と何となく高円寺の駅まで歩き、何となくそのまま電車に乗ってしまい、そして何となく見送ってしまったのだ。
「かわいい女の子といたからのぼせちゃってるんでしょ。」
「別にそんなんじゃないよ。」ぼくがそう言ったとき、電車が新宿駅のホームへと滑り込み、ドアが開いた。ぼくたちは乗り換えのために電車から降り、階段を下った。山手線の階段の前でぼくの前を歩いていた彼女が急に振り返った。
「ばかっ。」
そう言って彼女は振り向きざまに山手線の内回りホームの階段を駆け上がっていった。ぼくは、しばらくそこに呆然と立ちつくし、しばらくして我に戻って西武新宿駅へと歩き出した。なぜ彼女が怒っているのかを(たぶん怒っているのだと思う)考えながら。
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by ktaro1414 | 2007-01-11 08:35 | STORY

小説34

「でも、もうそろそろ帰った方がいいんじゃないかな。電車もなくなっちゃうし。」
「そうね。そう言えば何か用事があったんじゃなかった?」
「ごめん、オレのも嘘なんだ。」そう言って、ふたりで笑った。
マスターに精算を頼みぼくが支払おうとすると、すっと彼女が1万円札を出した。
「いいよ、オレばっかり飲んでるから。」
「大丈夫、学生さんでしょ。」
「いや、いいって。なんか子供扱いされてるみたいでやだし。」
「わかった、じゃあ割り勘で。」
そう言って彼女はぼくから千円札を2枚だけ受け取った。
 駅に向かって歩きながら、何気なくぼくは訊ねた。
「高円寺からどうやって帰るの?」
「中野で東西線に乗り換え。西葛西なの、寮。」
「西葛西かあ。あっ、それ言っちゃ駄目なんじゃないの?」
「ホントはね。」彼女は笑いながら言った。「でも、それだけじゃ場所までは解らないでしょ?それに、危ない人じゃなさそうだし。」
 ぼくたちは、高円寺から同じ電車に乗り、そして彼女は中野で降りた。ドアが閉まると、彼女は笑顔で手を振った。ぼくは、少しだけ手を挙げただけだった。
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by ktaro1414 | 2007-01-04 12:31 | STORY