忘れた頃に、突然更新


by ktaro1414
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小説33

「ねえ、なんでオレたちみたいな学生なんかと合コンしたのかな。」どうでも良いことだけど、何となく訊いてみた。
「オレたち?」
「そう、オレたち。」
「オレたちって、学生なの矢口さんだけじゃないんですか?」
「えっ?唐沢がそう言ったの?」
「はい。」
どうも、唐沢は社会人だと嘘をついて彼女たちを誘ったみたいだった。
「ま、いいけど。学生だよ、少なくともオレを入れた3人は大学3年。ひとりはオレも知らない奴だったからわかんないけど。あ、出来たら、このことはキミの友達には内緒にしといてもらえるかな?」
「別に言いませんけど。なんでそんな嘘つくんですかね?」
「わかんないよ。」
「ふうん。そうですよね。じゃあ、矢口さんが3浪してるってのも嘘?」
「オレが3浪?」ぼくは思わず吹き出してしまった。「そんなこと言ったんだ。無理やり年齢合わせたな、あいつ。」
「そっかあ、じゃあ矢口さん私より年下なんだ。」
「え?スチュワーデスのタマゴって、学校に行ってるんじゃないの?」
「あ、そうだ。そういうことになってたんだ。」彼女は首をすくめながら言った。「それも嘘。ホントはね、GH。地上勤務なの。」
「そういうことか。でもそっちのは、まるっきり嘘ってわけでもないね。」
いつの間にかぼくは、ハーパーのハーフロックを1杯とオン・ザ・ロック4杯を空け、その間に彼女はじっくりと時間をかけてカシスソーダを1杯空けた。そろそろぼくは、帰りの時間が気になりだした。もちろん彼女の、である。
「どこに住んでるの?」
彼女は、どうして?という風にぼくの方に顔を向けた。
「いや、変な意味じゃないよ。変な意味って言うのも変だけど。結構時間も遅くなってきたし、帰り大丈夫かなって思って・・・」
彼女はくすっと笑った。
「寮なの。」
「えっ、寮なの?だったら門限とかあるんじゃないの?」少し大げさに驚いてみせたぼくに、彼女は平然と答えた。
「あると言えばあるけど、そんなに厳しくないから大丈夫なの。ほとんど普通のマンションみたいなものだから。」
「そうなんだ。どこにあるの、寮って?」
ぼくがそう言うと、彼女は少しいたずらっぽい笑顔を浮かべた。
「あのね、GHと乗務員の寮って一緒なのね。だから、簡単に人に教えちゃいけないことになってるの。ほら、危ない人っているでしょ。」そしてもう一度くすっと笑って見せた。
「そんなつもりで訊いたわけじゃないんだけど。でも、それはそうだね。」
「だからね、定期的に場所も移すんだって。結構大変でしょ。私はまだ入ったばかりだから移ったことは無いけど。」
「そうなのかぁ。そんな大変な事だとは思わなかった。」
「でしょ?」
ぼくは、もう一度腕時計に目をやった。
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by ktaro1414 | 2006-12-28 12:31 | STORY

小説32

 ぼくたちの入ったバーには名前がない。あるいは名前が『バー』なのかもしれない。入口のドアに下げられた木製の看板には、カタカナで『バー』とだけ書かれている。店内は、7人が座れるカウンターと、4人掛けのテーブルがひとつあるだけで、さっきの店の名前はこちらに付けた方が相応しいんじゃないかと思うほどこぢんまりとした店だ。ぼくたちは、そのカウンターの一番奥の席に座った。
「マスター、ハーパーをハーフロックで。えっと、何にする?」
彼女はメニューを覗き込みながらどれにするか迷っていた。
「カシスソーダ?」ぼくが訊くと、彼女は顔を上げてぼくの方をじっと見た。
「だって、さっきのカシスソーダがおいしくなかったみたいだから。大丈夫、ここのはおいしいよ。ね、マスター。」
マスターは何も言わず微笑っていた。
「やだ、そんなにチェックしてたんですか?」
「だから、見えるんだって。正面だから。」
そして、ぼくたちはハーパーとカシスソーダでもう一度乾杯した。
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by ktaro1414 | 2006-12-25 18:04 | STORY

小説31

 ぼくは店に入るとまずビールを注文し、ふたつのグラスにそれを注いでひとつを彼女の目の前に置いた。
「飲めないわけじゃないよね?」ぼくが訊くと、
「どうして?」と彼女は応えた。
「それじゃあ、やっぱり飲めないの?」
「ううん。少しだけなら。」
ぼくたちは軽く乾杯をして、ぼくは一気に、彼女は少しだけビールを飲んだ。
「名前、ミキって言うんだ。」ぼくはラーメンを食べながらそう訊いた。
「さっき店で言いませんでした?」
「苗字はわかったんだけど、シマムラって。でも、名前までは聞き取れなかった。どんな字?」なんか、いつもこんな事訊いてるな、と思いながらぼくは言った。
「八方美人の美に、貴重品の貴で美貴。」
「ハッポウビジンのビって、美しいの美?」
「はい。」
「何でそんなややこしい言い方するの?美しいって言った方が早いでしょ。」
「なんか嫌じゃないですか、自分の名前教えるのに美しいなんて。」
「そうかな。八方美人なんて言う方が変だと思うけど。」
「嫌なんです。」彼女はそう言って少しだけ頬を膨らませた。「矢口さんは?」
「オレ?ああ、名前ね。」これもどっかで言ったなと思い、何となく気が引けながら答えた。「慧太郎。彗星の彗の下に心と書いて慧、太郎と花子の太郎で慧太郎。」
「ふうん、珍しい字ですね。慧って。じゃあ、シマムラはどう書くと思います?」
「山鳥の嶋に、普通の村。」
「当たりっ。」そう言って、また少しだけ笑った。なんだかこの内気な(たぶん)女の子に、ぼくは少しずつ好感を持ち始めていた。
「ねえ、もう少し飲めるなら、ちょっとだけ、もう一軒行かない?近くに古いけど渋いバーがあるんだ。もし良ければだけど。」
彼女は少し考えているように見えた。
「あ、明日早いって言ってたっけ。」
ぼくがそう言うと、彼女はこちらを向いて微笑んだ。
「あれ、うそ。」
ぼくたちはラーメン屋を出て、ふたり並んで店へと向かった。
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by ktaro1414 | 2006-12-21 12:07 | STORY

小説30

 駅に向かうには、来たときと同じ一本道を真っ直ぐ戻るだけなので、ぼくの視線の先には当然彼女がいる形になった。しかも、男と女の足なのでその差は見る見る縮まっていくし、この道の歩道はひどく狭いので、最後にはとうとう横に並ぶ形になってしまう。そのまま追い抜いてしまうのはなんだか気が引けてしまい、ぼくは思わず声をかけてしまった。
「お腹、空いてない?」
驚いたように彼女はこっちを振り返り、足を止めた。
「あ、ごめん。ただ、さっきから何も食べてないなあと思って。」
ぼくは歩くスピードを緩めて、彼女の隣を通り抜けた。というか、彼女も歩き出したためぼくたちは並んで歩く形になった。
「見てたんですか?」
彼女は足下の方に視線を落としたままそう言った。
「見てたというか、見えるんだよな。離れてても目の前だから。お腹いっぱいだったの?」
それについて彼女は何も言わなかった。
「駅前からちょっと入ったところに宮崎ラーメンの店があるんだけど、これが結構いけるんだ。お腹いっぱいだったらいいけど。」
「宮崎ラーメン?」
「そう。珍しいでしょ。オレの先輩が宮崎出身で、時々食べに来るんだ、一緒に。」そう言って彼女の方を見た。「やっぱり、お腹いっぱい?」
「ぺこぺこ。」
そう言って、彼女は少しだけ笑った。
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by ktaro1414 | 2006-12-18 19:13 | STORY

小説29

 しばらく、そんな状態が続いた。もちろん、ぼくも彼女も、その間全く会話をしなかったわけではなく、何度か隣の女性とも(彼女の場合は男と)話したし、彼女とも遠く離れた状態で声を張り上げて少しは言葉を交わした。しかし、基本的には、ぼくはビールを飲み続け、彼女はややうつむき加減で飲み物にもほとんど口を付けなかった。そうこうしている内に、次の店に行こうという話が固まったらしく、唐沢が男はいくら、女の子はいくらと集金を始めた。会計を済まして店を出た。雨は降り出していなかった。
「悪いけど、この後ちょっと用事があるんで、オレはこれで・・・。」
次はどこが良いか話し合っている唐沢にぼくは言った。
「何だよ、つきあい悪いな。」唐沢はそう言った後、ぼくの耳に口を近づけて小声でこう付け加えた。「ミキちゃんがかわいそうだろ。」ぼくには一瞬、ミキちゃんというのが誰のことなのかわからなかったが、すぐにそれがぼくの目の前に座っていた彼女のことだと気付いた。確かにそう言われればそんな気もしたが、別に彼女の相手がぼくと決まっているわけでもなく、それにもう帰ると言ってしまったものは仕方がない。そんなぼくたちの雰囲気を感じ取ったわけでもないのだろうけど、その時彼女が口を開いた。
「あのう、私も明日早いからこれで失礼します。」
彼女はそう言ってちょこんと頭を下げ、他の女の子たちと少し会話をしたあと、駅に向かって歩き出した。ほら見ろ、おまえのせいだぞ、と言わんばかりの唐沢の視線を受けながら、「それじゃ」とだけ言ってぼくも駅に向かった。
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by ktaro1414 | 2006-12-14 18:35 | STORY

小説28

 たぶん3杯目になるビールを(といってもここのビールはジョッキでは出てこないため量的にはそれほどでもなかったし、時間にすればたぶん10分ちょっとくらいだと思う)店員に頼んだとき、ぼくの正面に座っている女の子に気づいた。もちろんそこに座っていることは最初から知っていたけれど、改めて彼女を見ると、彼女は飲み物を(たぶんカシスソーダだとおもう)それほど飲んでいる様子はなく、食べ物にもあまり手を出していないようで、やや俯き加減にしてひっそりと、まるでこのグループとは関係なくここにいるように座っていた(たぶん、ぼくを他の人間が見れば同じように見えただろうけど)。4人ずつの男女が交互に座って、右端に座ったぼくがこういう状態になっていれば、左端に座った女の子がこのようになるのは当然といえば当然なのだが、改めてそのことに気づくと、なんだかものすごく悪いことをしているような気分になった。だが、このにぎやかな店内で、しかも必要以上に盛り上がっているように思えるこのボックスの中で彼女と会話をするには、ぼくたちの間にある2メートルちょっとの距離は、荒川の河川敷の向こうとこっちで会話するようなものだった。そんなことを考えながら彼女を見ていると、ぼくの視線に気付いたわけでもないのだろうけど、彼女が顔を上げ、ぼくたちの目が合ってしまった。驚いたけれど、今さら目を逸らすわけにはいかないので、どうしようかと迷っていると、彼女は少し微笑んでまたさっきまでの俯き加減の視線に戻ってしまった。なんだか悪かったなと思ったけど、かといってどうして良いかも思いつかなかったので、結局ぼくも今まで通り、枝豆やチーズやピッツァを摘みながら、新しく来た3杯目のビールを飲むことにした。
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by ktaro1414 | 2006-12-11 08:47 | STORY

小説27

 目的の店『スモール・スペース』はあっさりと見つかった。確かに唐沢の言ったとおりの場所にコンクリート打ちっ放しのいかにも最近出来ました的なビルがあり、そのビルのアプローチから直接二階へ続く階段を上ると『スモール・スペース』とサインの出た入り口があった。店に入り唐沢の名前を告げると、店員は店内の一番奥にある他のスペースとは壁で仕切られたボックス席へと案内してくれた。案内されながら店の中を見回すと、小さな空間という店名がなぜ名付けられたのかオーナーに訊いてみたくなるくらいの広いフロアで、店内は間接照明が多く使用されたやや薄暗い感じの雰囲気になっている。案内されたボックス席は、2メートル四方以上はある木製のテーブルをコの字にソファが囲んだ作りになっており、正面に唐沢、その周りにはなるほどと思わせる女の子たち四人、それと何度か話したことはあるが名前までは思い出せない男と、全く知らないもう一人の男、その七人がそれぞれ男女交互に座っていた。
「おお、やっと来たな。オマエはそこに座って。」という唐沢の指示のまま、ぼくはコの字の一番端に座った。「遅くなったけど、こいつが矢口。」
「オレが遅くなった訳じゃないだろ。」
「すぐそういう細かいこと言うんだから、オマエは。はいはい、みんな揃ったところでもう一度乾杯ね。」
 それから唐沢が、簡単に女の子を一人ずつ紹介して、すぐにそれぞれがそれまで交わしていたであろう会話に戻っていった。唐沢は右隣に座った髪の長い女の子がお気に入りのようで、やたらと肩を抱いたり腰に手を回したり、時には顔をひどく近づけて会話を交わしていた。他の二人の男たちも、それぞれ右隣の女の子とまるでこそこそ話でもするかのように体を向かい合わせながら、その割には大きな話声で盛り上がっており、そして彼らの一番右端に座ったぼくの右側には、間接照明によって薄くベージュがかって見える白い壁しかなかった。ぼくは、目の前に並んだ枝豆やチーズやピッツァを摘みながらひたすらビールを飲むことにした。
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by ktaro1414 | 2006-12-06 19:22 | STORY

小説26

 ぼくは、高く盛り上がった洗濯物を見つめ、もう一度腕時計を見てから、それを少しだけ片づけることにした。高円寺に午後七時であれば、まだかなり時間に余裕があったからだ。外は雨が上がったようだったが、またいつ降り出してもおかしくない様子なので、仕方なく部屋の中に干すことにした。
 3分の1程の洗濯物を片づけ終え、そろそろ家を出ようとしたとき電話のベルが鳴った。
「なんだよ。まだ家にいるのかよ。」唐沢からだった。ぼくは腕時計を見て時間を確認しながら言った。
「高円寺に7時だろ。今出ようとしてたところだから、全然間に合うよ。」
「いや、それがさ、なんだかみんな予定が早く終わっちゃったみたいでさ、もう集まりそうなんだよな。俺たち先に店に行ってるから、オマエ直接来てくれる。」
「いいけど、場所わかんないぞ。」
「大丈夫。わかりやすいところだから。高円寺の南口出て、ロータリーから真っ直ぐ延びてる道があるでしょ。ずっと行くと青梅街道に出るやつ。あの道を真っ直ぐ5分くらい歩いたら左側にコンクリート打ちっ放しのビルがあって、そこの2階の『スモール・スペース』って店だから。解んなかったら店に電話してくれ。104で訊けば解るから。」そこまで喋って一方的に電話を切られた。たぶんスチュワーデスのタマゴということに興奮しているのだろう。
「ま、いいけど。」ぼくは、そう呟いてからシャツを羽織って家を出た。
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by ktaro1414 | 2006-12-04 18:40 | STORY

小説25

                         第4章

 季節はいつの間にか梅雨に突入していた。毎日鬱陶しい雨の日が続き、ぼくの洗濯物の山は日に日に大きくなっていった。
 あの日以来、鮎川優菜にも豊田瀬梨香にも会っていない。豊田瀬梨香については、ただあれ以来ぼくのバイト先に来ていないだけのことだろう(もちろんぼくの入っていないときに来店している可能性はある)。でも、鮎川優菜とは、大学に行けば講義などで顔を会わせる事になるのだろうけど、ぼくがしばらく大学を休んでいたためそれもなかった。母方の祖母が亡くなり、その関係で実家に二週間ほど帰っていたためだ。しかし、そんなことに関係なく彼女とは何となく顔を会わせづらかった。それが、単に気まずさからくるものなのか、あるいはもっと他の感情からくるものなのか、ぼくには解らなかった。
 ぼくは、講義の間は出来るだけ目立たない場所を探し、昼食も学食は避け、キャンパス内もあまり歩かないように気をつけた。まるで何か悪いことをしでかした子供のように。たぶんそのせいだろう、唐沢とも顔を合わせることがなく、当然会話を交わすことなど全くなかった。
 そんな唐沢と、久しぶりに会ったのは、あいつがぼくの留守番電話にメッセージを入れた日だった(ぼくも来年の就職活動に向けて留守番電話を買ったのだ)。その日、講義を終えて部屋にもどったぼくが、シャツを脱ぎながら留守番電話のボタンを押すと、ひどくはしゃいだ唐沢の声が暗く沈んだ部屋の中で響いた。
「お前、なにしてんだよ。学校でも見ないし。今夜空いてるか?空いてるよな。今夜オレ様が合コンを仕込んであげたのでスケジュールを調整して来なさい。驚くなよ。なーんと、スチュワーデスです。んー、ホントはタマゴだけど。とにかく、ツー」。途中で途切れた留守電を睨みながら、ぼくは着替えを終えた。電話機は二度電子音を鳴らした後、再び唐沢の声を響かせ出した。
「悪い、悪い。今度は簡潔に言うから。で、今日の合コン、7時に高円寺の南口の前ね。高円寺の南口出たらロータリーがあるだろ。そのロータリーの真ん中の当たりに・・・、え?何言ってんだよ、わかってるから、お前は黙ってろって。あ、ごめん。でな、何で高円寺かっていうと・・・ツー」再び唐沢の声が途切れた。もう一度聞こえてくるだろう唐沢の声をぼくは待ったが、それまでの電子音より長い「ピー」という音を発した後、電話機はまるで寿命を迎えたかのような深い沈黙へと戻っていった。ぼくは腕時計を見た。午後5時を少し回ったところだった。スチュワーデスのタマゴというのに反応したわけではないが、たまたまこの日はバイトもなく、まあ行ってもいいかなと、そう思った。
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by ktaro1414 | 2006-12-01 08:22 | STORY