忘れた頃に、突然更新


by ktaro1414
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小説16

 結局、ぼくの入院生活は一ヶ月半続いた。左鎖骨骨折、右大腿部亀裂骨折及び裂傷、右側頭部打撲及び裂傷、そのほか傷大小多数。あれだけの事故の割に比較的無事だったのは、ぼくが落下した場所が柔らかい土の多い場所だった事によるらしい。しかしバイクは大破で廃車、学校は無期停学となった(とは言っても十日ほどで解けたらしく、入院期間の方がはるかに長かった)。
 そんなことよりも、ぼくには彼女を失ったという事実が現実感を伴わずにぼくの体中で渦巻いていた。あの日訪れた若い刑事の話によると、彼女はほとんど外傷らしい外傷はなく、見た目にははるかにぼくの方がひどい状況で、最初に発見してくれたドライバーもぼくの方が死んだと思ったらしい。しかし、救急車が到着した時点ですでに息はなく、よほど打ち所が悪かったのだろうと淡々と教えてくれた。
 退院すれば今度は刑事的な処罰がぼくに下されるであろうことは解っていた。でも、そういった何もかもがぼくにとってはどうでも良いことだった。ぼくが彼女を死なせてしまった、一人きりで死なせてしまった、そのことだけがぼくに関係のある唯一のことだった。
 退院の日が近づいてきたある日(とても天気が良い水曜日だったと思う)、ぼくの病室をひとりの女性が訪れた。ひどく憔悴しきったその女性は紛れもなく智絵美の母親だった。ぼくの看病に付き添っていたぼくの母親も、そしてぼく自身も彼女に対して何を言って良いか解らず、ぼくは彼女から浴びるであろう責めの言葉をひたすら受け止める覚悟だけをして彼女の方へ体を向けた。しかし、彼女のとった行動にぼくもぼくの母親もそれが何を意味するのか理解出来なかった。彼女は突然深く腰を折り曲げ、ぼくたちに「なんと言ってお詫びすればいいのか解りません。申しわけありません。」と言って泣き崩れた。ぼくの母親がそんな彼女を抱きかかえ、とりあえず病室の外へと連れ出した。その後、以前にも来た例の刑事ふたりが現れこの状況を説明してくれた。つまり、智絵美の部屋から遺書らしきものが発見され、その中でぼくと一緒に死ぬ(若い刑事はぼくを道ずれにと言った)と書いてあり、ぼくの証言と照らし合わせると、今回の件はぼくの引き起こした事故ではなく、彼女の引き起こした事件であると断定されたということだった。「つまりキミは無罪放免ってわけだよ。」良かったねという感じで微笑みながらその若い刑事が言った。ぼくはそんな彼の言葉に吐き気をもよおし視線を逸らした。ぼくは彼女と一緒に死んであげるべきだったのだ。そう約束したのに(死ぬことだとは思っていなかったが)。
 彼女との約束を守れず、彼女を失って、文字通りひとりぼっちになってしまったぼくは、以前にも増して人と関わりを持つことを避け、ひとりきりの世界に閉じこもっていった。そうやって、ぼくの高校生活は終わった。
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by ktaro1414 | 2006-10-31 08:11 | STORY

小説15

 ぼくが意識を取り戻したのは、それから四日後のことだった。うっすらと目を開けたとき、真っ先に見えたのは母親の顔であり、ぼくが目覚めたことに気付いて泣き崩れた。ぼくは起きあがろうとしたが体に激痛が走り無理だった。
「まだ動くのは無理よ。」
と姉の声がしたが、そちらを向くことは出来なかった。
「オレ、どうしたんだっけ?」
「バイクで事故ったのよ。もう少しで死ぬところだったんだから。」
姉の声も泣き声になっていた。
「彼女は?智絵美はどこにいる?」
母親は泣いているだけだった。姉も何も言わなかった。
「どこにいるんだ?」
「別の病院に運ばれたらしいの。ちょっと私、先生を呼んでくる。」
姉はそう言って病室から出ていった。医者が来てぼくの目を懐中電灯で覗き込み、ぼくの枕元にある機械の数値を確認していた。
「もう大丈夫でしょう。」
母親と姉がほっとしたように医者に礼を言った。
(こんな包帯ぐるぐる巻きで、何が大丈夫だってんだ。)ぼくは心の中でつぶやいた。
 しばらくして中年と若そうなふたりの男がやってきた。警察の人間らしい。事故の事情聴取を行いたいと、医者と母親に言った。医者は10分程度ならかまわないとふたりの男に告げた。中年の男の方が母親にしばらく席を外してくれと言った。母親は不安そうだったがぼくがかまわないと言ったので渋々出ていった。
 中年の方の男がぼくに事故の状況を教えてくれと言った。とても落ち着いた話し方だった。ぼくは何から話していいか解らなかったが、少なくとも事故の前日までのことは口にするべきではないと思い、ホテルを出てステーキを食べた辺りから話し始めた。事故の直前、彼女が自分でヘルメットを脱いだこと。ぼくに『ずっと一緒にいてくれるよね』と言ってぼくのヘルメットも脱がしたこと。そして、ぼくに目隠しをしたこと。とても信じてもらえるとも思えなかったが、他に話しようもなかったのでぼくはそのままを話した。ぼくが話している間、若い方の男はぼくの方へ訝しげな視線を送り続けていたが、中年の刑事は意外に優しく、静かにぼくの話を聞いていた。 その中年の刑事は、特に彼女がぼくに『ずっと一緒にいてくれるよね』と言ったことについて興味を示したらしい。ぼくは一通り話し終えると彼女のことを訊いた。彼女がどこにいるのか。ケガはひどいのか。ふたりはしばらく顔を見合わせていたが、若い方の刑事が教えてくれた。
「彼女は亡くなったよ。」
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by ktaro1414 | 2006-10-26 08:50 | STORY

小説14

 翌日も快晴だった。朝日のまぶしさに目を覚ましたぼくは、すぐにとなりを確認した。彼女の姿はなかった。「おはよう。遅いわよ。」
慌てて飛び起きたぼくに、彼女が言った。彼女はすでに起きて、ベランダに出てミルクを飲んでいた。
「おはよう。早いね。」
「うん。こんなにお天気がいいんだもん。寝てちゃもったいないでしょ。」
爽やかに笑う彼女は、ぼくの知っているいつもの彼女で、そこには昨日の夜見た彼女の姿はどこにもなかった。
 ぼくたちは、レストランでアメリカンブレックファストの朝食を摂り、素早く身支度を整えてホテルをチェックアウトした。3日目は特に目的地は決めてなく、気ままにワインディングロードを楽しみ、午後五時くらいには彼女を家へ送り届ける予定だった。彼女が「昼食はすっごく厚いステーキが食べたい」と言うので以前行ったことのある『ステーキとベーグルの店』に行くことにし、昼食の時間に着くように遠回りをして色々な風景を楽しみながら走った。
ぼくも彼女もこれ以上は食べられないというくらい大きなステーキを食べた(もっとも彼女は「もう食べられない」と言ったあと、アイスクリームをぼくの分まで含めて食べていた)。ぼくは、そんな彼女を見ながら昨日の出来事が夢だったのか現実だったのか解らなくなっていた。しかし、(たぶん夢だったんだ)そう信じたいぼくの胸には、震えながら押しつけられた彼女の小さな胸の感触が生々しく残っていた。
 昼食を済ませたぼくたちは、もう一度大観峰へと向かった。ぼくにはなぜだか、そこに行けば答えが解るような気がした。ぼくたちはふたり並んで展望台に立ち、目の前に広がる山々の稜線を眺め、眼下の温泉町から立ち上る白い煙を見つめ、ゆっくりと流れていく雲を追った。ぼくは彼女の手を握っていた。そうしないと彼女がどこかへ行ってしまいそうな気がしていた。しかし彼女はいつもと変わりなかった。そのことが少しだけぼくをほっとさせ、少なからずぼくを不安にさせていた。
 1時間ほどそこで時間を過ごしてぼくたちは帰路に就くことにした。ミルクロードという道を通って国道を目指した。この道が最後のワインディングロードだった。ぼくはそれほどスピードを出さずに、牧草を食べる馬や牛、草も生えていない斜面などを見ながら走った。そんなとき彼女がぼくのヘルメットに口を近づけ叫んだ。
「もっとスピード出してよ。」
「いいよ。」ぼくは少しだけスピードを上げた。
「ねえ、ずっと一緒にいてくれるんだよね?どこにでも一緒に行ってくれるんだよね?」
ぼくはよく聞き取れず、少し彼女の方へ顔を向けた。彼女はヘルメットをかぶっていなかった。
「メットはどうしたの?」
そう訊くぼくに彼女は答えずもう一度言った。
「ずっと一緒にいてくれるんだよね?どこにでも一緒に行ってくれるって言ったよね?」
「ああ、言ったよ。ずっと一緒にいるよ。」
ぼくも叫んだ。その時突然彼女がぼくのヘルメットを脱がせた。
(どうしたの?)そう訊く暇も無く、ぼくのヘルメットを脱がした彼女はぼくの目をその小さな手のひらで覆った。突然目の前が真っ暗になった。ぼくは慌てて彼女の手を振りほどこうとしたけれど、その前に激しい衝撃がぼくたちを襲った。ぼくはひどく不気味な浮遊感を感じ、その後目の中に一気に光が飛び込んできた。周りの景色がひどくスローモーションで流れていった。そして、今度は先ほどよりも激しい衝撃がぼくの体を襲った。それは今までに感じたこともないほど恐ろしい衝撃だった。周りの景色が突然早回りになった。空が地面になり、地面が空になった。しばらく続いた早回りの後、突然辺りの景色が止まった。止まった景色が見る見る赤く染まっていった。
(何がどうなったんだ?)
全く状況が解らなかった。
(そうだ、ぼくはバイクで倒れたんだ。)
そう理解出来るまでかなりの時間を要した。
(智絵美はどこだ?)
ぼくは体を起こそうとした。しかし、激痛が体を貫き動くことが出来なかった。ぼくは精一杯の力を振り絞って彼女の名前を呼んだ。二回、三回と呼んだ。しかし彼女は答えなかった。
「大丈夫か?」
しばらくして、男の声がした。
「彼女が一緒なんです。彼女を捜してください。」
そう言った後、ぼくの意識はかすんでいった。
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by ktaro1414 | 2006-10-23 11:57 | STORY

小説13

 いつの間にか眠りについていたぼくは、微かな風を感じて目を覚ました。隣に彼女の姿はなかった。部屋の中を見回してみると窓がわずかに開かれ、レースのカーテンが風に揺れていた。ぼくはパンツとTシャツと短パンをはいてベランダに出たが、そこにも彼女の姿はなかった。ふと草原へ目を移すと、淡い月の光に照らされて人影が浮かんでいた。ぼくは、入口からスニーカーを取り、ベランダを超えて草原へと降りた。そして彼女を驚かさないようにゆっくりと近づいていった。草原は咽せるような夏草のにおいで満たされていた。彼女は白いワンピースを身につけて、裸足で立ったまま空を見上げていた。ぼくは、彼女がこんな服を持ってきてるなんて知らなかった。でも、その時には彼女がその服を身につけて夜空を見上げていることが、とても自然なことのように思えた。
 ぼくの足音に気付いたのだろう。彼女は見上げていた顔をおろし、ゆっくりとぼくの方へ振り向いた。声をかけようとしたぼくに向けられた彼女の顔は、昨日展望台で見た時と同じように見えた。その瞳はぼくに向けられていながら全く別の何かを見つめていた。ぼくは、さらにゆっくりと彼女に近づき、彼女の両肩に手をかけた。そしてそのまま彼女の体を引き寄せ強く抱きしめた。彼女の体は小さく、とても小さく震えていた。ぼくは少しだけ体を離し、彼女の瞳を覗き込んで、そのまま口づけをした。その時、彼女が小さな声でささやいた。ぼくはその声に神経を集中させた。
「私を離さないで。ずっとそばにいて。」
ぼくには、そう聞こえた。
「大丈夫、離したりしないよ。」ぼくは抱いた腕に力を入れた。「部屋に戻ろう。冷えてきたよ。」
ぼくは彼女を抱きかかえて部屋に戻った。ゆっくりとベッドに横にさせ、布団を掛けた。そして、ベッドに腰をかけて彼女の様子を見ていた。ぼくは不安になった。彼女のこんな姿を今まで見たこともなかった。ひどく喉が渇いていた。ぼくはミニキッチンまで行き、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して飲んだ。そして、ゆっくりと再び彼女のそばに戻って。
「私も飲みたい。」
小さな声で彼女が言った。
「寝てなかったの?」
ぼくはそう言いながら彼女にミネラルウォーターのボトルを渡した。
「飲ませて。」彼女はそう言ってぼくにボトルを返した。ぼくは、ミネラルウォーターを少しだけ口に含み、すばやく彼女の口に移した。
「おいしい。」
「もっといる?」
彼女は少しだけ首を振った。
「ねえ、隣に来て。」
ぼくは、残りを飲み干して、空き瓶を流しに持っていき、彼女の隣に潜り込んだ。彼女はすぐにぼくに抱きついてきた。彼女の小さな胸のふくらみがぼくの胸で震えていた。
「大丈夫?何かあったの?」
彼女はそれには答えず、つぶやいた。
「ずっと一緒にいてくれる?私がどうなっても一緒にいてくれる?」
「うん。」
「私がどこに行くことになっても一緒に来てくれる?」
「うん、行くよ。」
「よかった。」
そう言ったあと、しばらくして彼女は小さな寝息をたて始めた。ぼくは理由のわからない不安を胸に感じながら、なかなか寝付くことが出来なかった。
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by ktaro1414 | 2006-10-17 16:17 | STORY

小説12

 翌日は早くにチェックアウトしてぼくたちは遊園地に向かった。ジェットコースターが大好きなぼくは、ジェットコースターが苦手な彼女を1時間にもわたって説得し、ようやく帰り際になって一緒に乗ることが出来た。彼女は乗り終わった後、しばらくご機嫌斜めだった。よほど怖かったらしい(ぼくのバイクにタンデムしている方が怖いんじゃないかと思うけど)。遊園地の後は熊がやたらとたくさんいる牧場に寄った。熊なんか全く見たいとも思わないぼくだが、どうしても行きたいという彼女のたっての希望で今回のプログラムに入れられた。彼女はさまざまな熊たちを見て「かわいい」とか「あの熊は性格が悪そう」だとか言って楽しんでいたが、ぼくにはどの熊も同じに見えたし、もちろん性格なんかわかりっこなかった。
 2日目の宿泊は高原にあるコテージ風のホテルにした。予約は1泊目の温泉だけしか取っていなかったので、どこに泊まるかはバイクで走りながら彼女が決めた。平日なので満室を心配する必要は無いだろうと思ったが、ぼくはヨーロッパ風のその建物の見た目から金額のことが心配だった。ロビーを抜けフロントに行き空室の有無を確認した後、ぼくは料金を尋ねた。フロントの男性は少し怪訝な表情を浮かべたがすぐに元の笑顔に戻り、親切に金額を教えてくれた。その額はぼくが想像していたものに比べ遥かに良心的で、ぼくをほっとさせた。ぼくは1泊2名をお願いして鍵を受け取った。部屋の中も外観と同じくヨーロッパ風の内装でとても感じの良いものだった。窓を開けテラスに出ると素晴らしく美しい草原が広がっており、夏だとは思えない涼しい風が優しく入ってきた。風呂は部屋にも付いていたが、ぼくたちは大浴場(なんとかスパという名前が付いていた)に入ることにした。夕食はレストランで、ぼくはハンバーグステーキとビールを、彼女はエビグラタンとサラダとビールを半分(残りの半分は結局ぼくが飲んだ)、そして食後に彼女だけアイスクリームをもらった(女性客だけのサービスらしい)。食事の後、ぼくたちはそれぞれもう一度何とかスパという名の温泉に入った。部屋に戻った後、ぼくはビールを、彼女はアップルタイザーを飲みながらテラスのベンチに座って夜空を眺めた。少し眠くなったぼくは、先に部屋の中に戻りふたつ並んだベッドの奥の方に入った。しばらくして彼女がぼくのベッドに潜り込んできた。ぼくが「今日は声を気にしなくていいよ。」というと彼女は少し怒った振りをしてぼくに口づけをした。ぼくたちは夢中でお互いの体を求め合った。彼女はいつもの数倍も激しいように感じられた。
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by ktaro1414 | 2006-10-13 12:48 | STORY

小説11

 ぼくたちは再びバイクに跨り、赤い大きな橋を渡って、国道から細い坂道へと入った。しばらく民家の間を縫うように上っていくと、ほぼ行き止まりのようにしてぼくらの目指す旅館に到着した。フロントででたらめな住所と名前を記入し、仲居さんについて部屋に入った。そしてぼくたちはすぐに温泉へと向かった。ふたりとも汗で体中がベトベトで、とにかく体を流したかった。ぼくは1時間ほど温泉に入り部屋に戻った。彼女はまだ上がってきていなかったので、ぼくは冷蔵庫からビールを取り出しグラスに注いだ。そして窓を開けて外を眺めた。日はかなり傾いて、もう少しで山の陰に隠れそうだった。
 しばらくして、部屋のドアが開き仲居さんが入ってきた。夕食の準備をしていいかと訊かれたので、ぼくは「お願いします」と言った。彼女はまだ戻ってきてはいなかったが、もうそろそろ戻るだろうと思ったのだ。仲居さんが準備をしている間、ぼくは何となく部屋の中に居づらかったので「ちょっと散歩してきます」と言って部屋を出た。少しだけ彼女のことが心配になり始めてもいたからだ。
 旅館の前の道を少し歩いたところに滝がある。ぼくは前にも来たことがあったので、何となくそちらの方に歩いてみた。ガードレールに腰掛けて彼女が滝を見ていた。ぼくは何も言わずに彼女の隣に腰を下ろした。
「滝って近くで見てると細かいキリみたいなのが飛んで来て気持ちいいでしょ。これって水だけじゃなくて精神的に良くなる成分があるんだって。」
「へぇ~、知らなかった。」ぼくは一度彼女を見て、もう一度滝に目を戻して言った。「もう夕食の準備が出来てると思うよ。部屋に戻らない?」
「そうね。」
 部屋に戻ってみると夕食の支度は完全に整っていた。すぐに仲居さんが来て、陶器の器がのった固形燃料に火をつけてくれた。ぼくはビールを1本冷蔵庫から取り出し、仲居さんに熱燗を2本お願いした。仲居さんが部屋を出るのを待ってぼくたちはビールの栓を抜き、ぼくが彼女のグラスに注ぎ、彼女がぼくのグラスに注いでくれた。「乾杯。」ぼくたちはグラスを合わせ、ぼくは一気に、彼女は半分ほどグラスを空けた。ちょうどビールが空になったころお銚子が2本届いた。仲居さんはしばらくぼくたちを交互に眺めた後、「何かあったらそこの電話で呼んでください。」と言って出ていった。ぼくたちは、顔を見合わせて少しだけ笑った。彼女がぼくに熱燗を注してくれた。ぼくはそんな彼女の姿に見とれていた。浴衣を着た彼女の頬はうっすらと淡いピンクに染まり、後に束ねた髪はまだ少し濡れていた。ずっと見つめているぼくの視線に気付いた彼女は「そんなに見ないでよ。」と言ってふくれて見せた。ぼくはそれでも彼女に見とれたまま、彼女に熱燗を指し返した。
 夕食を終え、ぼくたちはもう一度風呂にはいることにした。ぼくは電話で食事が終わったことを伝え、二人で入れる風呂があるか訊いてみた。仲居さんは、家族風呂なら別料金だが二人で入れ、それほど大きくはないけど露天風呂であることを教えてくれた。ぼくはその家族風呂をお願いし、二人で入ることにした。ぼくたちはお互いに背中を流し合い、湯船に浸かって満天の星空を眺めた。
 部屋に戻るとふたつの布団が綺麗に並べられていた。ぼくは何となく気恥ずかしかったが、彼女は特になにも感じてはいないようだった。ぼくは冷蔵庫からもう一度ビール取り出し飲んだ。彼女にも勧めたが「いらない。」とのことだった。先に彼女が布団の中に入った。しばらくぼくは窓辺でビールを飲み、遅れて彼女の入った布団に潜り込んだ。彼女は「声が外に漏れるからダメ」だといったがぼくはかまわず彼女を抱きしめた。しばらく彼女はぼくの腕を押さえていたが、すぐに力を緩め少しずつ息が荒くなっていった。
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by ktaro1414 | 2006-10-11 11:42 | STORY

小説10

 高校三年の八月、夏休みも残りわずかとなったころ、ぼくたちはバイクで2泊3日の旅行に出かけた。本当は、ぼくは海の方が良かったのだけれど、彼女がどうしても高原のいわゆるワインディングロードを走りたいというので、だったら温泉に泊まろうということになり、比較的安い宿をぼくが押さえ、彼女が昼間の予定を決めた。
 当日、早朝に彼女の家へ迎えに行き、国道を南下した。途中、小さな地方都市の市政100年を記念した公園に立ち寄り、彼女の作ったサンドウィッチを朝食代わりに食べた。レタスとハムとマスタードの効いたマヨネーズを挟んだとてもおいしいサンドウィッチだった。ぼくの口元に付いたマヨネーズを彼女がそっと舐めてくれた。犬の散歩をしていたおばさんがひどく顔をしかめてぼくたちを見ていた。
 その後、再び国道を南下し、途中から東へと方向を変えて阿蘇の外輪山の中へと入った。大観峰でバイクを止め(ここは阿蘇の外輪山の北側に位置し、とても見晴らしがよい)ソフトクリームを買って食べ(今度は彼女の口元にクリームがついて、ぼくはそれを舐めてあげようと思ったけど、さすがに人目が多くて出来なかった)、しばらく二人で雄大な景色を眺めていた。汗で濡れたTシャツが風に吹かれて気持ちよかった。まだ旅館にチェックインするには時間が早かったので、ぼくたちは夏の日射しの中で少しだけ眠った。
 ぼくが目を覚ましたとき、彼女は隣にいなかった。ぼくは、ゆっくりと腰を上げ辺りを歩いて彼女を捜した。彼女は、展望台の一番先にいた。声をかけようとしたけれど、なんだかそれが彼女の後ろ姿ではないように思えて躊躇った。しばらくの間ぼくは、なぜだか解らない不安な気持ちになりながら、その後ろ姿を見つめていた。突然彼女が振り向き、しばらくこちらを見ていた。微笑むこともなく、口を開くこともなく、その瞳はぼくの方を見ながら、まるで別のものを見ているように思えた。
「智絵美?」ぼくが耐えきれなくなり彼女に声をかけた。「何してるの?」
まるでその一言が呪文であったかのように、彼女が優しく微笑んだ。
「雲。雲を見てたの。」
ぼくはゆっくりと彼女の隣に立った。
「雲かぁ。おもしろい?」
「ううん。ただ雲はいいなぁって思って。おっきくて、のんびりしてて。」
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by ktaro1414 | 2006-10-06 17:20

小説9

 休みの日には、ぼくたちはバイクでいろんなところへ行った。夏には海や川に行ったし、秋には山に行った。時には数日泊まりがけで温泉に行ったりもした。また、彼女がぼくの家に泊まることもあったし、ぼくが彼女の家で夕食をごちそうになることもあった。ただ、彼女の家に行ったときにはいつも母親と弟だけで、ぼくは彼女の父親に会ったことはなかった。それは、少しだけぼくの気持ちを楽にさせてくれていた。
 ぼくは、彼女にだけは何も隠し事をせず、悩みや進学についての不安など全て話して聞かせた。彼女もそうだった。ただひとつのことを除けば。それは、彼女の家庭のことだった。ぼくは、いつも彼女の父親だけがいないことを少しだけ不思議に感じていたため、そのことについて彼女に聞くと、決まって彼女は表情を曇らせそのことについては今度話すからと言ってはぐらかすばかりだった。実は、彼女の父親は他に愛人を作り、ほとんど家には近寄らない状態だったらしい。しかし、ぼくがそのことを知ったのはかなり後になってからだった。
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by ktaro1414 | 2006-10-04 13:06 | STORY