忘れた頃に、突然更新


by ktaro1414
カレンダー
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31

カテゴリ:STORY( 87 )

小説93

「んーっとね、」ぼくが質問したこと自体を忘れたように飛んでいく水鳥の様子を眺めていると、ようやく彼女が口を開いた。「なんだかうまく云えないんだけど、矢口君って無理に自分を押さえ込んでる感じがするのね。これをしちゃダメなんだとか、ああなっちゃダメなんだ、みたいな。あ、ごめん。生意気なこと言っちゃって」
彼女の言っている意味はわからないではなかった。ぼくは、智絵美の事を当然忘れた事はないし、そのことにより無意識に(当然意識もしていると思うが)行動に制約を付けているような気はする。たとえば恋愛とか。
「ホントにごめん。怒っちゃった?」
「ううん。オレが訊いたんだし。ありがと。何となくわかるような気もするし」
「だからダメだって訳じゃないのよ。ただ、何となくそれが自分自身、辛いんじゃないかなぁなんて思っちゃったの」
「そんなに無理してるように見えるかなぁ。見えるんだろうね。特に意識してないんだけど。あれしちゃダメだ、これしちゃダメだ、とかって」
(恋も)と心の中でつぶやいてみた。
「んー、何となくなんだけどね。たとえば恋愛とか」
ドキッとした。ぼくは思わず彼女を見つめていた。
[PR]
by ktaro1414 | 2009-05-28 18:00 | STORY

小説91

「どうしてオレに会いたいなんて言ったの?」
そう言って彼女の方へ顔を向けると、彼女はきょとんとした顔でぼくを見ていた。その目は、ぼくの方を向いているけれど、ぼくを通り越して数メートル後ろを見ているようにも見えた。
「どうしてって、会いたいなぁって思ったから。それじゃダメなの?」
「いや、駄目なわけないけど。ただ、なんでオレなんかに会いたいって思ったのかなって、ちょっと不思議っていうか、信じられないっていうか」
彼女は相変わらずきょとんとしたままぼくを見ていた。
「どうして信じられないの?私って信用できない人?」
「いや、そうじゃないよ」ぼくは慌てて否定した。「キミが信用出来るとか出来ないとかの話じゃ無くって。そういうことを言われたことがあまり無いもんだから、つい」
「そうなの?そうは見えないけどなぁ」彼女は少しだけ表情を変えて言った。「矢口くんって、もう少し自分に自信を持った方がいいよ。っていうか、もう少し自分のことを理解した方がいいっていうか、わかんないけど、なんかそう思う」
[PR]
by ktaro1414 | 2009-01-14 12:35 | STORY

小説90

 日曜日、ぼくと彼女はJR吉祥寺駅で待ち合わせた。彼女が、どこか公園に行きたいと言ったので、井の頭公園に行くことにしたのだ。空には雲ひとつ無く、10月も終わりとは思えないような日差しが降り注いでいた。そんな日差しを浴びながら、駅から公園へと向かう道を、ぼくたちはゆっくりと歩いた。時には、途中にある雑貨屋や古着屋なんかを覗いたりしながら。公園の入口にあるレストランの店先で飲物を売っていたので、ぼくはハイネケンのボトルと、彼女にミネラルウォーターを買い、池の畔のベンチに腰掛けて、それを飲んだ。日差しは強いけれども、湿気が無く、とても気持ちの良い日曜日だった。ぼくは半分程ビールを飲んだところで、何気なく彼女に訊いていた。
「どうしてオレに会いたいなんて言ったの?」
[PR]
by ktaro1414 | 2008-10-15 08:50 | STORY

小説89

 嶋村美貴から連絡があったのは、それから数日後の金曜日の朝だった。ぼくは寝ぼけたままだったのだが、彼女の声を聞いて一気に目が覚めた。「近いうちに会えないかな」という彼女に対して、ぼくはすぐにスケジュール帳を確認し、次のバイトがオフの日を数日告げ(それは、翌々日の日曜と、来週の火曜、そして木曜だった)、だったら日曜日がいいという彼女にオーケイと即答し、時間と待ち合わせ場所を決めて電話を切り、忘れてしまわないようスケジュール帳にそれを書き込んだ。そしてシャワーを浴びようと洗面所に行ってふと鏡を見たとき、寝ぼけながらもなんだかにやついたようなぼくの顔が映っていた。それを見たとたんひどい自己嫌悪が襲ってきた。豊田瀬梨香の存在を知られることにより鮎川優菜と疎遠となり、その豊田瀬梨香は豊田香穂里となってしまった。そんな寂しさを嶋村美貴の存在でごまかそうとしているようで、ひどく気分が悪くなった。
[PR]
by ktaro1414 | 2008-07-25 12:49 | STORY

小説88

「なんだ、それじゃぁ」と、言いかけたぼくを制するように唐沢が言った。
「でも、オレはヒロミちゃんにオレの連絡先教えてるから、たまに連絡があるんだよ」
だからなんだよと思いながらも、ぼくは続きを待った。
「なんだよ、鈍いねオマエは」そう言って一口だけ水を飲んでちらっと外を見た。「だからオマエんちの電話番号教えといたから、ヒロミちゃんに」
ぼくは一瞬その意味を理解できなかった。
「なんだよ、かってな真似するなって顔だな」
「いや、そんな訳じゃ」ぼくは慌てて否定していた。「ただ、オマエが電話番号教えたからって連絡があるとは限らないじゃないか」
「そりゃそうだよ。ただ、ホントに美貴ちゃんが会いたいって言っているんなら連絡するんじゃねーの。そうじゃなきゃ、無いかもしんないけど」
確かにその通りだ。
「ま、期待しないで待ってな。」そう言いながら、唐沢はトレイを持って立ち上がった。ぼくもつられて立ち上がった。
「オマエ、この後の予定は?」
「今日はバイトだ」
「そっか。残念だな。今日飲み会があってさ、かわいい子来るんだけどな」
「ん、でも無理だ」
「そっか。じゃあまたな」
そう言ってぼくらは別れた。
[PR]
by ktaro1414 | 2008-07-09 12:47 | STORY

小説87

「オマエ、誰から聞いたんだよ」
たぶんあの娘だろうとは想像ついたが、名前が思い出せなかった。
「ヒロミちゃんに決まってんじゃん」カツを口の中で持て余すようにしながら唐沢が答えた。
「もし会いたいって思ってくれてるとしても連絡先知らないから無理だよ。前にも言っただろ」ぼくはそう言って、コップに水を注ぐために席を立った。オレのも、というふうに唐沢がカツをくわえたまま自分のコップをぼくの方に差し出したので、ぼくはそれを受け取り、両方のコップに水を満たして席に戻った。なんとか戦いに勝利したようで、唐沢がハンカチで口元をぬぐった後、コップを受け取りながら先を続けた。
「それは前にも聞いたよ。オレだってむこうの連絡先知らねーもん」
ぼくは、それを聞いて再びがっかりした。少しだけ。
[PR]
by ktaro1414 | 2008-06-30 18:55 | STORY

小説86

 そんな10月も終わりに近づいたある日、午前中で講義を終え学食で昼食を摂っていたぼくに唐沢が近づいてきた。両手にあの強敵であるカツ丼がのったトレイを持って。
「今日は終わりか」
そう言いながらぼくの向かいの椅子に腰を下ろした。
「ああ」ぼくはそれだけ言って、残りのみそ汁を飲み干した。
「なんだ、そっけないな。」唐沢は今から戦う強敵との準備のために手のひらをこすりあわせながらぼくを見た。
「オマエに話があったんだよ」
そう言いながら、彼は強敵との戦いを開始した。ぼくはしばらく彼等の戦いの様子を眺めていた。今日の敵は思いのほかポテンシャルを秘めているようで、彼等の戦いは長引きそうだった。
「オマエ、美貴ちゃん憶えてるだろ」途中、休憩するように時々顔を上げて唐沢が口を開いた。
美貴ちゃん?一瞬ぼくは誰のことかわからなかったが、すぐに思いついて答えた。
「美貴ちゃんって、GHの嶋村美貴のことか?」
「そう、その美貴ちゃん。オマエに会いたいって言ってるらしいぞ」
ぼくは、高円寺でのあの短い時間のことを思い出していた。
[PR]
by ktaro1414 | 2008-06-20 13:17 | STORY

小説85

 季節は秋になり、街中はすでに冬支度を始めようとしていた。少し前まで、その肌を自慢するようないでたちで歩いていた女性たちは、いつの間にか自分のコーディネートを誇らしげに主張しあっていた。
 あのバイト先での一件以来、豊田香穂里には全く会っていない。いや、正確に言うと、あの後2~3度店に現れたらしいが、たまたまぼくがシフトに入っていない日だったため会わずにすんでいたし、一度はぼくが早番上がりの日で、バイクで帰ろうとしたところに香穂里が現れたが、ぼくは無視して走り去ることができた。その間ぼくは、ほぼ毎日学校に通い、夜はシフト通りにバイトに入った(あの日、制服のまま帰ったことで香月には嫌みを言われたけれども)。たまには、唐沢たちと(というか唐沢と、と言った方が正しい)飲みにも行ったし、洗濯も掃除もきちんとこなした。つまり、見た目上は何もなかったように過ごす事が出来ていた。それでも、豊田香穂里に対するぼくの怒りは、あの日から3週間あまりがたった今も全く収まることはなかった。怒りと何とも言えないむなしさがぼくを覆い尽くしているようだった。いや、本当はそんな豊田香穂里に(その時は瀬梨香だと思っていた女に)智絵美の話をしてしまった自分が一番許せないのかもしれなかった。
[PR]
by ktaro1414 | 2008-06-11 18:03 | STORY

小説84

「ねえ、待ってよ。」そう言ってバイクの前に立ちはだかった。「何があったの?何かいやなことでも言われた?堀口さんから」
「どういう事なんだ」
「どういう事って?」
「人のことをおもしろがってネタなんかにしやがって」
豊田香穂里はふうっと息をつき、まるで駄々をこねる子どもをあやすような口調でいった。
「そのことね。黙っていたのは悪かったと思うわ。ごめんなさい。でも、ネタにしたとかそう言う事じゃないの。キミは自分では気づいていないかもしれないけど、なにか人を惹きつけるものを持ってるのね。キミのそういうところを表現してみたかったの」
「表現してみたかった?ふざけんなっ。」怒りで全身がひどく震えていた。
「ふざけてなんかない」
「うるさい。なんであんたみたいな女がオレに近づいてきたのかがやっとわかった。小説にするネタが欲しかったんだな」
「ねぇ、聞いて」ぼくの怒りがようやく伝わったのか、香穂里の声が上ずっていた。「この店で最初にあなたにあった時からすごく興味を持ったの。そして、どんどんあなたに惹かれていったのは事実よ。ほんとにあなたは魅力的なのよ。だから、それを表現したかっただけ・・・」
ぼくはもう何も言わず、バイクに跨った。
「ちょっと待ってよ。すぐに戻るから、ここで待ってて。ご飯でも食べに行ってゆっくり話しましょう」
ぼくは無言でイグニッションを回しエンジンをかけた。
「ちょっと待ちなさい。あなたお酒飲んでるでしょ。私が送っていくからバイクは置いて・・・」
ぼくは香穂里を振り切るようにバイクを発進させた。
[PR]
by ktaro1414 | 2008-06-04 12:00 | STORY

小説83

「何でかい声出してんだよ」
アイドルがぼくに向かって怒鳴ったが、そんなことはどうでも良かったし、実際ぼくの耳には届いていなかったように思う。
「失礼します」
それだけ言って、ぼくがVIPルームを飛びだそうとしたその時、堀口がドスのきいた声で「待て」とぼくを呼び止めた。ぼくは思わず振り返っていた。
「まあ、待て」
もう一度そう言ったあと、“銀座”に何かささやきながら紙切れのようなものを渡し、“銀座”がそれを持ってぼくの方へ近寄ってきてそれをぼくの前に差し出した。
「オレの連絡先だ。何かあったら連絡していい。車の方でも構わんよ」
ぼくはそれを流れで受け取り、堀口に向かってもう一度「失礼します」とだけ言ってその場所を離れた。エントランスへの階段を駆け上がり、「どうなった?」と訊くタカシをほとんど無視してヘルメットをロックからはずしてかぶった。そうしてバイクに跨ろうとしたとき、豊田瀬梨香、いや香穂里が息を切らして駆け寄ってきた。
[PR]
by ktaro1414 | 2008-05-30 11:36 | STORY